木造薬師如来坐像【新潟市指定有形文化財】
平安時代末期 像高110cm

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新潟県 新潟市の寺院(真言宗醍醐派)           


   
虫穴拡大


         耳のかたち


後頭部内刳り

像の概要
一木造り(カツラ材)。内刳りあり。彫眼。割首せず。頭体幹部を後頭部までを含む一材より彫出。背面材(後補)を寄せる。右腕は肩より肘、肘より手首、手先をそれぞれ寄せる。左腕は肩より腰まで、肘より袖先まで、手先、薬壺をそれぞれ寄せる。両脚部を横一材に寄せる。
頭部の内刳りはは後頭部より行い、体幹部には繋がらず、蓋板を嵌める。
表面は後補の布貼り彩色。

主な損傷の状態
  • 長年のほこり、煤により表面が汚れていた。
  • 虫食い穴が像全体に散在していた。
  • 虫食い・腐朽による像の形状の欠失箇所が多数あった。
  • 表面の後補布貼りが浮いている部分があった。
  • 白毫が脱落していた。
修復基本方針
  • 信仰上の事情もかんがみ、後補の布貼り弁柄彩色は除去せずに、像の経て来た歴史、造像当初のオリジナル部分の彫刻としての力を取り戻すべく、オリジナルを尊重した修復を行なった。
  • 表面の塗り直しは行なわずに、彩色の欠失箇所のみを補彩した。
  • 後補部材はそのほとんどを用いることとした。
  • 今回の修復では像の解体は行なわず、その欠失箇所と構造を強化する修復を行なった。

主な施工内容

  • 木質剥落止めおよび強化
    虫食いや腐朽によって、彫刻表面が薄皮一枚になってしまっている部分に合成樹脂を皮下注射し、強化した。
  • 虫穴充填補修・欠失箇所補修
    漆木屎を用いて充填補修した。
  • 矧ぎ目接合強化
    像底より、矧ぎ目に合成樹脂を注入して接合を強化した。
  • 像底平面の確保
    後世の修理によって像の底面の接地面が確保されておらず、材を補ってこれを確保した。
  • 新補
    後頭部内刳りの蓋板、左袖内側、裳先、薬壺のつまみを桧材を用いて新しく補った。
  • 色合わせ
    全ての補修箇所に、周辺と違和感の無いよう、漆および顔料を用いて色を合わせ、補修箇所を目立たなくした。
所見
  • 右の耳の形状。
  • 後頭部と頭頂部の螺髪を省略している点。
  • 頭・体幹部を一材で彫り、割首を行なわない点。
  • 後頭部から空けた内刳りに蓋板を当てている点。
  • 頭部の内刳りと胴体の内刳りを繋げずに独立させている点。
  • 後補布貼りの上からの観察であるが衣紋表現の彫りの浅い点。
  • 裳先を膝前材と同木から彫出し、小さく表現する点。膝頭の面の立ち上がりの急である点。
       

など古風な要素が見受けられ、造像年代を平安時代末期と推定する。
  

  • 体幹部材に辺材を含んでおり、広葉樹の年輪年代測定法の研究の進展によって、将来、像の造像年代の確定が可能になる事を期待する。

◆修復後記
 信仰上の観点から、像の表面の後補の布貼り彩色は除去せずに、虫穴や欠失を補修しました。お寺の横の建物で冬の時期に行ったので寒さとの闘いでもありました。ご住職様には毎日修復の様子を見て頂き、ご意見も伺って非常に学ぶ事が多かったです。醍醐寺の管主様から感謝状もいただきました。
新潟県内でも指折りの古くて立派なお像でした。


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