木造不動明王坐像
江戸時代後期 総高97.5cm 像高
52.9cm

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新潟県 佐渡市 弘仁寺様 (真言宗)           

●修復前            





●修復後






●修復前後








●損傷状況





●修復後部分




●修復作業


像の概要

木造寄木造り(ヒバ材)。内刳りあり。玉眼。体幹部は前後2材で寄せる(内刳りは像底を彫り残す)。割り首。後頭部材は背面材と同木で、割り首を行っているが、マチ材を挟む(材が量的に足りなくなり、一旦切り離して別材を寄せたか)。両肩より左右それぞれ、上腕、前腕(手先を含む)を寄せる。上腕は一旦割り離し、内刳りを施す。両脚部を横材で寄せる(内刳りは像底を彫り残す)。宝剣は木製。羂策は五色の紐、先端部木製。表面膠下地漆塗り彩色。頂蓮、水波板、腕釧、臂釧は漆塗り漆箔を施す。宝剣、羂策先端は膠下地漆塗り漆箔。部材は釘鎹を用いず、膠のみで接着されていた。

[造像年代]
 ・
非常に洗練された構造技法、頭部の造形、像底を平ら  に仕上げる技法などより造像年代は江戸時代後期と推  定する。
 ・像底に以前台座に嵌めるための突起が付けられていた  形跡があり、台座、光背は後世に作られたものと分か  った。(幕末〜明治か)

損傷状況
[本体]
 ・接合に使用されている膠が経年劣化し、部材が  脱落した部分(両腕)があり、体幹部前後の矧  ぎ目、両脚部の矧ぎ目は遊離していた。他の矧  ぎ目の膠も劣化しているものと考えられた。
 ・表面に長年のホコリ・ススが堆積し汚れていた  。
 ・羂索の紐が護摩壇の壇線ものを転用されており  長すぎた。
 ・表面彩色が劣化し、脆弱化していた。
[台座]
 ・表面に長年のホコリ・ススが堆積し汚れていた  。
 ・框の漆塗膜が剥離している部分があった。
 ・表面彩色が劣化し、脆弱化していた。
[光背]
 ・矧ぎ目の遊離している部分があった。
 ・彩色の剥落している部分があった。
 ・表面彩色が劣化し、脆弱化していた。

修復基本方針
 ・像の造像当初の彫刻形状を生かした、歴史を尊  重した修復を行った。塗り直しなどの安易な修  理方法は一切とらなかった。
 ・像本体は接合部分に釘や鎹が使われておらず、  膠のみの接着と考えられ、それぞれの部分で経  年劣化が進み、構造が弱まっていると考えられ  、全解体修復を行う必要があった。
 ・台座は構造的に弱まっておらず、彩色や漆塗り  膜を損じることのないよう、内部から構造を補  強し補修を施した。
 ・光背は中央で矧ぎ目が遊離していた。矧ぎ目の  目立つ部分も認められ、このような立体構造の  光背は構造的に弱いものであるため今回解体修  復を行うのが良いと考えた。
 ・羂策の紐は、壇線が利用されていたが、長す  ぎであった。今回新しく補うこととした。

修復工程
表面強化
 像本体、台座の表面彩色および、膠下地を強化す るために膠水溶液を数回塗布し強化した。光背は 膠水溶液での剥落止めは行えず、アクリル樹脂で 表面彩色の強化を行った。
剥落止め
 台座框の剥離している漆塗膜、像本体と光背の彩 色を膠と電気コテを用いて剥落止めした。
解体
  像本体と光背の全ての部材を解体した。
矧ぎ面清掃
 解体した部材の矧ぎ面の膠を湯で拭き取り清掃し 、再接着に備えた。
鉄釘除去
 光背に使用されている鉄釘は木質を炭化させ損傷することからこれを出来る限り除去した。
釘穴補修
 再度使用する釘穴には、ヒノキの木釘を接着し補 修した。
補強
 台座内部の矧ぎ目に補強材を接着し、台座の構造 を補強した。

接合
 接着剤とステンレス釘を併用し、接合を行った。
・修復銘札納入
 今回の修復の記録として、桧板に墨書して頂いた修復銘札を像内に納入した。
矧ぎ目補修
 漆木屎を用いて2段階の作業で材の矧ぎ目を充填 整形した。  
小欠失箇所補修
 小欠失箇所、表面塗膜欠失箇所に漆木屎を用いて 2段階の作業で補修を行った。
・羂索紐の新補
 羂索の紐は護摩壇(木綿)のものを再利用されて いるが長すぎており、これを新しく補った。正絹 の五色の糸を撚り合せ作成した。
像本体表面欠失部分の補修
 像表面補修箇所に漆錆下地を施し、色と質感を周 辺と合わせた。
框漆塗膜の補修
 像本体の漆箔補修部分と框漆塗膜の欠失箇所に膠 下地を用い、補修を行った。
漆塗り
 像本体の漆箔補修部分と框補修箇所に塗り漆を塗 った。
漆箔
 像本体の漆箔補修部分と框補修箇所に金箔を貼っ た。
補彩
 補修部分に周囲と違和感のないよう、顔料や漆錆 などを用いて補彩を施した。


◆修復後記
・非常に手慣れた仏師が、定石通りの技法を用いて制作している。表面はクリーニングと膠による強化のみを行ったが、表情に凄みが出た気がする。


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