木造十一面観音立像 
平安時代後期(12世紀)  
 総高(台座底面〜光背)255.5cm  像高 169.2cm

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新潟県 長岡市 個人蔵          

全体
           修復後全体


     修復前           修復後


     修復前            修復後

損傷状況












修復中






光背


解体写真

 
像の概要(修復後)

 一木造り(センなどの広葉樹か)内刳りなし。頭部に仏面1と頭上面11面を付ける。彫眼。右前腕材に一材、指と付け根にそれぞれ一材を寄せる。左前腕2材、手先別材、指先に2材を寄せる。右天衣は4材、左天衣は2材を寄せる。両足先別材。像底面ホゾ穴は丸ホゾ穴であるが、外に出ている部分は現状角ホゾ。持物化瓶は2材よりなり、蓮華は4材よりなる。胸飾りは銅製。
表面は、頭上面膠下地漆箔。肉身部、条帛は漆下地色。裙、天衣は彩色。化瓶、未開蓮は漆下地漆箔。

主な損傷の状態
  ・長年のほこりにより表面が汚れていた。
  ・像足元が木材腐朽菌により腐朽していた。
  ・虫食孔が散在していた。(特に足元・背面に多かった)
  ・顔面などの肉身部が、後補の表面処理によって造像    当初の像容が害されていた。
  ・いたるところで彫刻形状が欠失していた。
  ・後世の修理時の後補部材の形状が合わず、像容を害   していた。
  ・右腕材が腐朽し、彫刻表面が欠失していた。
  ・両腕、両手先の矧ぎ目が遊離していた。
  ・後補の台座の天板がたわみ、足ホゾの長さに比べ薄    い為に、構造的に像の安定を保てていなかった。
  ・部材の接合に使われている、鉄釘は錆び、膠は経年    劣化して、このまま放置すれば、次々と部材は脱落す   る恐れがあった。
 [台座]
  ・長年のほこりにより表面が汚れていた。
  ・表面彩色が膠の経年劣化によって、剥落していた。
  ・天板が像の重量を支えきれず、中央で沈み込んでい    た。
  ・ホゾ孔の深さが、天板の厚み(2cm程度)しかなく、像   を固定するには浅すぎ、中越地震の際に、像本体が    後ろに傾いたものと推定された。
  ・正面の流木が虫食い、腐朽を被っていた。
 [光背]
  ・鉄釘、膠の劣化によって、矧ぎ目が遊離していた。
  ・表面彩色が膠の劣化によって剥落していた。
  ・後世の修理に施された紙貼りが剥がれ浮いていた。

\ 修復工程

・赤外線観察
 赤外線カメラで観察した結果、像背面より墨書が発見され た。
・後補表面除去
 顔面や肉身部の後補表面処理を除去すべきか検討した 結果、下の彫刻表面の強度も充分にあり、除去が可能と 判断した。後補の表面処理で除去することで、像のオリジ ナリティーを回復できると考え、除去を行った。膠下地を  綿棒などに水分を含ませ、丹念に除去した。
・剥落止め
 像下半身の表面彩色に剥落止めをした。
・解体
 全ての部材を一旦解体した。
・鉄釘除去
 鉄釘・鎹は、錆びて膨らみ材を割り、木材を炭化させる癌 のようなもので事から、これを全て除去した。
・釘穴補修
 釘穴を再利用するものは、木釘を挿入して補修した。
・解体写真
 部材を並べて解体した状況を写真に記録した。
・樹脂含浸強化
 合成樹脂を用いて、腐朽箇所を、含浸強化した。(彫刻表 面には濡れ色を出さないよう注意した)
・虫食孔強化
 虫食孔に合成樹脂を注入し、彫刻表面を強化した。
・虫食孔補修
 虫食孔に漆木屎(漆+小麦粉+木粉)を用いて充填整形 し補修した。   
・小欠失箇所補修
 小欠失箇所に漆木屎を用いて補修を行った。特に右前腕 は彫刻表面全 てが腐朽によって失われていたため、全 てを補った。
欠失箇所新補
 大きな欠失箇所と後補部材で使用に耐えない部材を、ヒ ノキ材を彫出して、新しく補った。(右耳朶、化仏1面、右  手指5指、左手第2指、右天衣上部)
・後補部材の補正
 使用に耐えられると考えた後補部材は、出来るだけ使用 し、形状の補正の必要のあるものは切削補正した。(長す ぎる左腕は切り縮め、右足先は左足先に形状をそろえた 、持物の形状を補正した。)
・組み立て
 接着剤、ステンレス釘を併用して組み立てた。
・矧ぎ目処理
 部材同士の矧ぎ目(つなぎ目)に漆木屎を充填整形して、 部材の形状を連続させた。
・補彩
 補修部分にのみに周囲と違和感のないよう、顔料などを 用いて補彩を施した。

 [光背]
・表面紙貼り除去
 後世修理時に貼られた紙貼りが、浮いた状態で張られ非 常に良くない状態であったことからこれを除去した。
・剥落止め
 表面彩色全体の剥落を止めた。
・解体
 全ての部材を一旦解体した。
・鉄釘除去
 鉄釘は、錆びて膨らみ材を割り、木材を炭化させる事から、これを全て除去した。
・釘穴補修
 釘穴を再利用するものは、木釘を挿入して補修した。
・組み立て
 接着剤とステンレス釘を併用して組み立てた。 
矧ぎ目処理・補修
 矧ぎ目と小欠失箇所を漆木屎を用いて補修を行った。
・補彩
 像を拝観すしやすいよう、顔料などで全体に補彩を施した。

 [台座]
・剥落止め
 表面彩色全体の剥落を止めた。
・樹脂含浸強化
 腐朽して脆弱化した箇所に、合成樹脂を含浸し強化した。
・補修
 小欠失箇所、矧ぎ目に漆木屎を用いて補修した。
・構造強化
 天板が沈み、像の安定を欠いていたので、台座内部に構 造材を設けて構造を安定させた。
・補彩
 補修箇所に色を置き、目立たなくした。


◆修復後記
・本像は、平安時代後期(12世紀)の様式を良く表しており、非常に貴重な御像である
・台座と光背は江戸時代の後補である。
・顔面、胸、腹の肉身部分は後補の膠下地漆箔下に当初の彫刻がよく残っており、これを除去し、オリジナリティーを回復し、古風な平安期の像容を回復する事ができた。
・何度かの修理が行われていた。比較的古い補作の左足先、左手先、などは使用に耐えられるものと判断し使用した。右手指の全てと左第2指、右耳朶などは非常に新しい補作で、使用に耐えられないものであったため今回新しく補った。右足先や両天衣、持物は形状を修正して使用した。
・後補の天冠は、十一面観音としては置かない方が通例であることから、取り外し別保存とすることにした。
・持物の念珠は、数個台座上に落下していたものと、新補したものを使用し、補った。
・背面に近世の文字で「坂原村長福寺(花押)」と墨書されていたが、該当する寺院の資料は存在しなかった。



像のオリジナリティの回復と後補部材を利用しての修復という難しい部分があった。


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