木造大権修理菩薩坐像 

宝永五年=1708年      像高   54.8cm    

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東京都のお寺(曹洞宗)       


●修復前






●修復後



●修復作業

 スタイロフォームで仮作成。木彫で新補。

膠下地塗布

 曲禄解体

 Y 形状
[本体]
上に開く方形の冠を戴く。両側頭部に櫛を差す。左手は屈臂し額の前に上げ、掌を下に五指を開く。右手は屈臂し、掌を下に五指を開き、右腰の上に置く。あげ頸の道服を着て曲禄上に坐る。

[台座]
曲禄。

Z 品質・構造
 [本体]
  木造寄木造り(ヒノキ材)。内刳りあり。玉眼嵌入。
  挿首。頭部は、耳後ろで材を寄せ、冠にも小材を寄せる。両櫛別材。玉眼ガラス製か。体幹部は前後に寄せる。両腰材を寄せる。両脚部に横一材を寄せ、垂下する裳先を横一材で寄せる。左手は肩、肘で別材を寄せる。右手は一材製。像底刳り上げ。心束を彫り残し、台座天板の突起に差し込む。表面彩色。

[台座]
  木造。膠下地漆塗り。天板彩色。

[ 損傷状況・後補箇所
 ●損傷状況
 [本体]
  ・左前腕、左手先の亡失。
  ・後補彩色の経年劣化による剥離、剥落。
  ・両肩の矧目の緩み。
  ・全体の部材の矧目の緩み。

 [台座]
  ・矧目の緩み。
  ・表面後補漆塗膜の剥離、剥落。

●後補箇所
  ・表面彩色。 
  ・曲禄表面漆塗り。

\ 墨書など
  像底に
  『 石外道亀居士 峰室真松大姉
     即覚是心信士 先誉清心信女
     右為四霊菩提奉造立之
     宝永五戊子春日施主村松重太良
     霊亀山安昌禅寺現住蟠龍代   』   ※宝永五年=1708年

 ] 所見
  ・宝永五年制作の年代の確定出来る基準作例として非常に貴重である。後世の彩色で形状が少し甘くなっているが、造形的にも体躯に厚みを持たせ、重厚感があり整っている。
  ・「霊亀山安昌禅寺」の記述に近い名前の寺院は、台東区今戸に「亀雲山 安昌寺」がある。薬師寺様と同様に総泉寺末のお寺である。そこに「蟠龍」というご住職様がいたかどうか。今後調べたい。

]T 修復工程
修復基本方針
  ・御像の歴史を尊重した文化財としての修復を行う。安易な塗り直し修理は行わない。
  ・両肩の部材のみを解体し、体幹部内部や像底からの接着剤の注入によって構造を強化することとする。
  ・後補の彩色は造像当初の彩色の上に直接塗られているが、これを除去することは困難であり、後補の彩色を残した修復を行うこととする。

[本体]
1.搬出
  薄葉紙、紙座布団などを使用して厳重に梱包して搬出した。 
2.修復前写真撮影
  修復前の状態を写真に記録した。
3.剥落止め@
  全体に膠水溶液を数回塗布し、彩色塗膜を強化した。
4.剥落止めA
  剥離している彩色塗膜を膠水溶液と電気コテを使用して貼り付け直した。
5.部分解体
  頭部と両肩を一旦解体した。
6.構造強化
  体幹部内や像底の矧目より、合成樹脂を注入し構造を強化した。
7.解体写真撮影
  解体した状態を写真に記録した。
8.組み立て
  両肩をエポキシ系接着剤にて組み立てた。
9.仮造形
 左腕の新補にあたり、一旦発泡ポリスチレンで仮造形を行った。
10.新補
  左手先は、ヒノキ材を彫出して新補した。
11.補修
  矧目や形状の欠失箇所を漆木屎(漆+小麦粉+木粉)を用いて補修した。
12.下地
  補修した部分にのみ白土下地を施した。
13.補彩
  下地を施した部分にのみ、周囲と違和感のないよう、顔料を用いて補彩を施した。 
14.修復銘札納入
  今回の修復の記録として、尊像名、修復年月日、ご住職様名などを桧板に墨書していただき、像内に納入した(写真解説参照。次回の修復時に子孫が目にする大事な記録となる)。
15.修復後写真
  修復後の状態を写真撮影し記録した。
16.修復報告書作成
  写真を用いた修復報告書を作成した。
17.搬入
  薄葉紙、紙座布団などを使用して厳重に梱包して搬送した。 
18.安置
  修復工程のご説明後に像を安置した。

[台座](本体と同一工程は省略)
 1.解体
   全ての部材を一旦解体した。
 2.後補漆塗膜除去
  後世の漆塗膜が剥離しており、剥落止めしたとしても別の部分からの剥離が危惧されることからこれを全て除去した。
 3.解体写真
  部材を解体した状態を写真に記録した。
 4.組み立て
  エポキシ樹脂系接着剤を使用して組み立てた。
 5.矧目補修
  漆木屎(漆+小麦粉+木粉)を使用して矧目を補修した。
 6.下地
  全体に漆錆下地を施した。
 7.漆塗り
  塗り漆を塗った。
 8.色合わせ
  像と違和感のないよう光沢を合わせた。

◆修復後記
 ・ご紹介いただいて訪問させていただいて、お話しをお聞きしていたら、実は中学の時の同期生の実家のお寺だという事が分かり驚きました。


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