山脇敏男作「蕊」
1970年第2回日展に出展     像高 193.2cm

HOME修復例仏像の修復山脇敏男作「蕊」

県庁の最上階に安置されていましたが、東日本大震災の揺れにより転倒し、両足が折れてしまいました。修復後には元々の所蔵者の新潟県立近代美術館に収蔵されました。

新潟県立近代美術館所蔵

●修復前


●損傷状況
額の潰れ


●修復後

 Y 品質・構造
  木造一木造り(カツラ材)内刳りなし。木心を背面に外す。全体を一本の木より彫出。表面には溶剤や水に溶けない塗料を塗っている。干割れを木で埋めるなどの処置をされている。

Z 損傷状況・後補箇所
 ●損傷状況
  ・東日本大震災により転倒した。

   ・額と鼻先の彫刻形状の潰れ。
   ・両足脛よりの割損。
   ・表面塗膜の紫外線による劣化。

●後補箇所
  後補箇所はなく、制作当初のオリジナルの状態のまま保存されてきたと考える。

[ 所見
  ・台座後ろに刻まれた陰刻により山脇敏男氏によって1970年第2回日展に出展された像ということが分かる。村上市出身の彫刻家で、村上大祭の屋台にも彫刻が残されている。
  ・転倒時の大きな衝撃によって脛部分が木目に沿って破断してしまった。元々干割れが起きて弱い部分であったと考えられる。幸い断面の面積が大きく、接着と木ネジを入れることで、強度を持たせる事が出来た。
  ・材が動いており、様々に湿度を調整して元に復するよう試みたが、両足を完全に元の位置に戻すことは出来なかった。従って、出来るだけ歪みを背面で逃がすよう腐心した。
  ・像底が平面ではなく、今後の展示には、展示台への固定など、倒れ止めの処置が必要と考える。

\ 予定修復工程
修復基本方針
・御像の造形を尊重した文化財としての修復を行った。安易な塗り直し修理は行わなかった。。
・顔面の潰れは水分を含ませることで復元した。
・両足の割損は、木ネジなどを用い、構造を強化して、展示に耐えうるようにした。
・像表面の紫外線による劣化に対する処置は行わず、現状の状態を保持した。

1.搬出
   薄葉紙、紙座布団などを使用して厳重に梱包して搬出した。 
2.修復前写真撮影
   修復前の状態を写真に記録した。
3.足の割れの補修
   右足の割れ部分は、一旦切除し、エポキシ樹脂系接着剤とステンレス木ネジを併用して接合した。
4.足の接合
   割損した両足脛をエポキシ系接着剤、ステンレス製の木ネジを併用して、接合した。
5.矧目補修
   隙間に、漆木屎(漆+小麦粉+木粉)を充填整形して補修を行った。
6.潰れたお顔の造形の補修
   表面の塗料が水で動かないことを、目立たない部分で確認し、水分を含ませ、木質を膨潤させてある程度復元した。
7.補彩
   補修部分のみに周辺と違和感のないよう、弁柄漆、アクリル絵の具、水干顔料などを用いて、補彩を施した。
8.修復後写真
   修復後の状態を写真に記録した。
9.修復報告書作成
   写真を用いた詳細な修復報告書を作成した。
10.搬入
   薄葉紙、紙座布団などを使用して厳重に梱包して搬送した。 
11.安置
   修復工程のご説明後に像を安置した。


       

◆修復後記
 ・初めての現代美術の修復でしたが、彫刻の技法は、仏像彫刻と同じものでした。


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