木造阿弥陀如来立像
鎌倉後期 
   像高 97.4cm

HOME修復例仏像の修復→木造阿弥陀如来立像

新潟県 三条市の寺院(真言宗)  [新潟県指定有形文化財]


     



●修復作業
半分クリーニングしたところ
光背の修復
肉髻珠の修復


綺麗にした光背の鏡に日光を反射させると放射光に。

 Y 形状
 [本体]
  螺髪旋毛形(右旋)。肉髻、肉髻珠、白毫相をあらわす。耳朶貫く。三道相をあらわす。左手は垂下して掌を正面に向け、右手は屈臂して掌を正面に向けて立てて、いずれも第一・二指を捻ずる。内衣・裙・覆肩衣・衲衣を着ける。内衣は左胸から右腹にかけてあらわれ、覆肩衣は右肩から右腕を覆い、右胸下方の衲衣にたくし込まれる部分でたるんで裏側を見せる。衲衣は左肩を覆い右肩に少し懸って腹前にまわり、端はふたたび左肩に懸り、大きく折返して垂らす。裙は脚部正面右足内側で右前に打ち合わせる。左足をわずかに前に踏出して立つ
 
 [光背]
  舟形光背[頭光、身光の二重円相(頭光に鏡、身光内に宝相華文の彩色)。光脚]

 [台座]
  蓮華七重座[仰蓮二段十方・反花二段十方・高欄(欄干に獅子、紗綾型文)・受座(見付部に雷文)・八角形敷茄子(雲文)・受座・雲座・框)
 
 [厨子]
  春日型。

Z 品質・構造
 [本体]
  木造寄木造り(ヒノキ材)。内刳りあり。肉髻珠、白毫水晶製。玉眼嵌入。頭体幹部は両耳の中央やや後寄りで前後に二材を矧ぎ合わせる。割首か。(後ろ襟上端に沿って3個所に、首との接合竹釘が残る)。背面肩後ろに小材を寄せる。左右体側部材を矧付け、左右前膊外側に懸って垂下する袖部材は、ともに別材矧付けとし、内側垂下部はさらにそれぞれ別材を矧寄せる。両手首先、両足先を別材にて矧ぎ寄せる。錆漆地漆箔。頭髪部群青彩か(現状古色)。足?大部を前半材から、一部を後方材から彫出。

[台座]
 木造。膠下地漆塗り漆箔。框朱漆塗り。

[光背] 
 木造。膠下地漆塗り漆箔、内区・彩色。背面に布貼り。頭光に銅鏡。

[厨子]
 木造。漆錆下地漆塗り。扉面に観音菩薩、勢至菩薩の彩色画。

[ 損傷状況・後補箇所
 ●損傷状況
  [本体]
   ・長年のホコリ、ススによる汚れ。
   ・左手第4指の欠失。
   ・頭部・両足先矧目の遊離。
   ・小欠失箇所の散在。
   ・鉄鎹の腐食。
   ・漆塗膜の剥離、剥落。
   ・肉髻珠の遊離。

  [台座]
   ・長年のホコリ・ススによる汚れ。
   ・ネズミによる咬害。
   ・足ホゾ穴が効いていない。
   ・接着剤の膠の経年劣化による構造の脆弱化。
   ・内部に使われた鎹の腐食による構造の脆弱化。
   ・框の遊離。

 [光背]
   ・長年のホコリ・ススによる汚れ。
   ・銅鏡の錆による曇り。
   ・内区の彩色の剥落。
   ・ネズミによる咬害。

 [厨子]
   ・長年のホコリ、ススによる汚れ。
   ・扉絵の彩色の劣化。
   ・部材の遊離箇所が多い。
   ・小欠失箇所の散在。
   ・框の亡失により不安定。

  ●後補箇所
   肉髻朱。白毫。肉髻珠周辺の螺髪。髪際および後頭部襟足部の螺髪補修。漆箔・彩色。光背、台座、厨子。

\ 墨書など
 ●厨子の漆による年季
  「元禄十五 瀬兵衛 奉竒施主 渡部弥五右衛門 」(元禄十五年=1702)
 ●光背頭光の鏡の銘
   作者『藤原光政』の銘

] 修復所見
  ・像本体は、鎌倉時代。13世紀後半の制作と考える。(衣文の彫りは浅く、大人しい。肉髻が低いが、髪際は平行。像底の刳り上げが浅い。背面肩後ろに小材を矧ぎ寄せ、胸の厚みを表現しているなどの特徴より)
  ・服制などに新潟県指定有形文化財 加茂市 西光寺蔵 木造阿弥陀如来立像に共通部分が多い。制作年代は同像より下ると考えるが、同系統の仏師の制作もしくは、参考関係にあることも考えられる。
  ・厨子自体も左側面の銘文より、元禄十五年(1702)の制作と考えられ、扉絵の観音菩薩、勢至菩薩の絵像も非常に貴重なものである。
  ・光背頭光部の鏡に「藤原光政」の銘が残されており、光背が江戸期に補われた事が分かる(藤原光政は数代に渡って江戸期に活動している)。
  ・像表面の漆塗膜は造像当初の塗膜に直接漆を塗り漆箔をされており、造像当初の造形をよく継承しているが、頭部と両足先にはその後に塗り直しが行われていると推定する(両足先の後補Aの泥下地漆塗りの塗膜は今回除去した。頭部は除去しなかった。髪際の漆はこの時のものか)。
  ・目を細くしたり、三道などが改変されている可能性もあると考える。
  ・部分的に鉄鎹の腐食は起こっているが、解体修復の時期には来ていないことから、構造強化と部分的な補修を行った。また、像の足元の構造が弱り、台座の足?穴が効かない状態にあり、光背も?穴が短く、不安定な状態にあった。厨子制作時には、台座、光背は厨子に接着されていた。また、厨子底面も框が亡失しており、側面材の?が下に飛び出していて、厨子自体も安定していなかった事から、框を新補した。 
  ・造像当初の肉髻珠は、現状のものよりも大きいものが付けられていたと推定され、周辺に後補の部材が補われていた。

]T 修復基本方針
  ・御像の歴史を尊重した文化財としての修復を行った。安易な塗り直し修理は行わなかった。

[本体] 
  ・部分解体に留め、矧目の強化と小欠失箇所の補修を行った。
  ・全体の汚れをクリーニングした。

[台座]
  ・解体は行わず、表面のクリーニングと、内部からの構造強化を中心に行った。
  ・足ホゾが効くよう構造材を補った。

[光背]
  ・解体は行わず、全体のクリーニングと、小欠失箇所の補修を行った。
  ・彩色部は剥落止めを行い、欠失部に地色を補彩し、目立たなくした。
 
[厨子]
  ・部分的に解体を行い、構造を強化した(底板と框材)。
  ・全体をクリーニングした。
  ・当初の予定には無かったが、亡失した框を新補した。

]U 修復工程
 [本体]
  1.搬出
     薄葉紙、紙座布団などを使用して厳重に梱包して搬出した。 
  2.修復前写真撮影
     修復前の状態を写真に記録した。
  3.清掃
     表面のホコリ、ススを刷毛で除去した。
  4.部分解体
     容易に外れてしまう部材のみを一旦解体した(両足先)。
  5.下地強化
     下地の露出部分に膠水溶液を塗布し強化した。
  6.クリーニング
     長年のホコリ、ススをクリーニングした。
  7.樹脂構造強化
     矧目にアクリル樹脂を注入し、構造を強化した。
  8.新補
     左手第3指をヒノキ材にて新補した。
  9.肉髻珠の取り付け
     底面に朱を塗り、接着した。
  10.補修
     欠失箇所、矧目に漆木屎(漆+小麦粉+木粉)を用いて補修を行った。
  11.下地
     補修部分にのみ下地を塗布した。
  12.漆塗り
     下地を塗布した部分に塗り漆を塗った。
  13.漆箔
     必要な部分に金箔を貼った。
   14.補彩
      新補補修部分と、後補部材で色の調整をとるべき部分に周辺と違和感のないよう補彩を施した。
  15.修復銘札納入
     今回の修復の記録として、尊像名、修復年月日、ご住職様名、修復に関わった人の名、修復工房名などを桧板に墨書していただき、台座内に納入した。
  16.修復完成写真
     修復後の状態を写真撮影し記録した。
  17.修復報告書作成
     写真を用いた修復報告書を作成した。
  18.搬入
     薄葉紙、紙座布団などを使用して厳重に梱包して搬送した。 
  19.安置
     修復工程のご説明後に像を安置した。 

[台座](本体と同一工程は省略)  
  1.清掃
     刷毛でホコリ、ススを除去した。
  2.樹脂注入
     内部より矧目に樹脂を注入し、構造を強化した。
  3.補強材新補
     必要な部分に補強材をヒノキ材にて新補した。
  4.クリーニング
     薬剤なども用いて、汚れを除去した。
  5.下地強化
     下地露出部分に膠水溶液を吸わせ、強化した。
  6.接合
     遊離していた框を接合した。
  7.補修
     欠失箇所を漆木屎を用いて補修した。
  8.下地
     補修箇所に膠下地を施した。
  9.漆塗り
     下地を施した部分に塗り漆を塗った。
  10.漆箔
     金箔を補うべき部分に金箔を貼った。
  11.補彩
     補修部分に周囲と違和感のないよう色を置いた。

[光背](本体と重複部分は省略)
  1.矧目強化
     アクリル樹脂を矧目に注入し構造強化した。
  2.剥落止め@
     彩色部分と膠下地部分に膠水溶液を吸わせ、強化した。
  3.クリーニング
     薬剤なども用いて汚れを除去した。
  4.剥落止めA
     剥離している漆塗膜と彩色を膠水溶液と電気コテを使用して剥落止め した。
  5.鏡磨き
     頭光の鏡を磨き、光沢を取り戻した。
  6.補修 
     小欠失箇所を漆木屎を使用して補修した。
  7.下地
     補修箇所に下地を施した。
  8.漆塗り
     下地を施した部分に塗り漆を塗った。
  9.漆箔
     金箔を補うべき部分に漆箔した。
  10.補彩  
      周囲と違和感のないよう補彩を施した。

[厨子]
  1.彩色剥落止め、下地強化
     扉絵の彩色を膠水溶液を用いて剥落止めした。
  2.部分解体
     下回りと屋根の部材の容易に外れる部分のみを一旦解体した。
  3.解体写真
     解体した状況を写真に記録した。
  4.組み立て
     部材を組み立てた。
  5.クリーニング
     水拭きもしくは、薬剤使用によって厨子をクリーニングした
  6.補修
     欠失箇所を漆木屎を用いて補修した。
  7.矧目補修
     部材の矧目を補修した。
  8.框新補
     予定には入れていなかったが、框部分が亡失し、安定が悪くなっていたので、これを新補した。
  9.下地
     補修箇所に下地を施した。
  10.漆塗り
     下地を施した箇所に塗り漆を塗った。
  11.色合わせ
     補修部分に違和感のないよう色を置いた。

 ◆修復後記
・長年の信仰のなかでのスス汚れを除去するだけで、険しい表情が凛々しくなる事が分かります。


もどる
このサイトの御意見・御感想は、butuzou★syuuhuku.com
                       (★を@に変えて送信下さい)まで

HOME :http://syuuhuku.com