木造阿弥陀如来坐像  [福島県指定有形文化財]
応安四年(1371年南北朝時代) 乗円作  像高 73.5cm

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福島県の寺院(臨済宗)  

南北朝時代の仏師「乗円]の作例。台座と、光背の二重円相部と、天冠も造像当初のものでとても貴重。像本体の漆箔も造像当初のものが残る。台座は崩壊寸前でした。

●修復前


●修復後












X 形状
[本体]
垂髻。宝冠を戴く。天冠台(蓮弁状の飾り、紐、連珠、紐、左右に半花形の飾り)。頭髪毛筋彫り。宝冠左右の半花形飾りの中央より一束の髪を出し天冠に巻く。鬢髪耳を渡る。白毫相をあらわす。耳朶を貫く。三道彫出。覆肩衣を着け、右腹前で衲衣にたくし込む。衲衣を偏袒右肩に着け、右肩に少し懸け、端を左肩に懸ける。両手は屈臂して腹前に置き、阿弥陀定印を結ぶ。結跏趺坐する。

[台座]
六重蓮華座[蓮台(5段)、華盤、獅子、受座(八角形)、反花、三段框座(1,2段目反花付き、八角形)]

[光背]
舟形光背[頭光、身光の二重円相。頭光に八葉蓮華、身光に光脚。二重円相の縁に紐、連珠、紐、列弁。周縁部雲烟彫り(後補)]

Y 品質・構造
[本体]
木造寄木造り(カヤ材)。玉眼嵌入。漆箔。
髻別材。頭体幹部通して前後に2材を矧ぎ、内刳りを施す。両耳前を通る線で、面部を割り矧ぐか。像内肩部と腰部でそれぞれ?袋を残し接合する。両肩より地付きまで通して、それぞれ竪に1材を体側に矧ぐ。脚部は裳先をも含んで横1材を矧ぐ。体幹部前面材に束を地付まで残す。表面漆錆下地漆塗り漆箔。天冠金銅製鍍金。

[台座]木造。漆錆下地漆箔及び彩色。心棒(ヒノキ材)を通す。
蓮台:天板前後2材(ヒノキ材、竹釘を交わす)。天板下には構造材4材(カヤ材)を寄せる。下部に蓮弁を寄せる板材(スギ材)を5段に寄せる。蓮弁(カヤ材)60枚を魚鱗に葺く。
華盤:板材3材(ヒノキ材)を?組し、8方より材(カヤ材)を寄せる。
獅子:横一材(カヤ材)。尻尾を寄せる。
受座:天板3材(ヒノキ材)を寄せ、8方より材(カヤ材)を寄せる。
反花:8方より材(カヤ材)を寄せる。
三段框座:3段それぞれに見付部・上面に8方より材(ヒノキ材)を寄せる。上2段には反花を8方より材(カヤ材)を寄せる。それぞれ内部に井桁に構造材(スギ材)を寄せる。

[光背]
木造。漆錆下地漆箔および彩色。二重円相部3材、光脚に1材、縁に別材を数材(カヤ材)を寄せる。周縁部を4材(キリ材、後補)で寄せる。

Z 損傷状況・後補箇所
●損傷状況
 [本体]

   ・表面がホコリ、ススにより汚れていた。
   ・裳先などに小欠失があった。
  ・矧目に亀裂が入っている箇所があった。

 [台座]
   ・東日本大震災により蓮弁が落下し、沢山の蓮弁が脱落していた。
   ・長年のホコリ、ススにより汚れていた。
   ・蓮肉部上面の前後2材の矧ぎ寄せが外れていた。また、蓮肉内部の4材の構造材のうちの1材が遊離しており像の安置に不安があった。
   ・矧目が遊離している部材があり、構造が弱まっていた。
   ・漆塗膜が剥離、剥落していた。
   ・彩色が剥離、剥落し、経年劣化により粉状化していた。
   ・欠失箇所があった。(蓮弁先、華盤の先4か所、框の一部)
   ・亡失箇所があった。(獅子の尻尾、華足)

[光背]
   ・漆塗膜が剥離、剥落していた。
   ・彩色が剥離、剥落し、経年劣化により粉状化していた。
   ・長年のホコリ、ススで汚れていた。
   ・後補の周縁部が像容にあってなく、構造的に弱まっていた。
   ・亡失箇所があった(二重円相の縁)。

●後補箇所
  [本体]
   左眼。白毫珠。
  [台座]
   蓮弁の紙貼り彩色。彩色の一部。華盤の先。框の一部。心棒。
  [光背]
   周縁部。彩色の一部。

[ 墨書など
 [像内背面墨書]
『 大檀那田口村西■弥■■ 応安二二年十二月日 大仏師治部法橋■円 』

※応安四年=1371。解読は以前の資料より。現状読み切れない文字もある。

\ 修復所見
  ・本像を制作した仏師乗円は県内で6体の作例がある。中世の同地域内で同一仏師の作例が数多く残っていることは非常に珍しく、南北朝時代の仏師の行動が伺われる貴重な資料ともなっている。
  ・天冠と台座、光背の二重円相部も造像当初のものが残されており非常に希少である。また、像や台座・光背表面の漆塗膜は造形と断文の状態により、造像当初のものが残されているのが分かる。表面処理までが造像当初のものが残されているのは貴重である。
  ・台座の表面処理は皆金色ではなく、漆の黒色のままの部分や彩色を施した部分もあり、制作された時代の好みをよく伝えている。
  ・当初天冠まで残されている例は非常に少なく、厚めの銅版を加工した非常に精緻な造形は、工芸品としても非常に素晴らしい。
  ・以上の事を考え合わせると、本像は南北朝時代の造像当初の雰囲気をよく伝えており、非常に貴重な御像と言える。

●仏師乗円の作例
  陽泉寺(福島市)釈迦如来坐像 延文二年(1357法眼円勝とともに
  真福寺(西会津町)地蔵菩薩坐像 康安二年(1362法眼道円とともに
  久昌寺(山都町) 十一面観音坐像 康安二年(1362法眼道円とともに(元真福寺)
  善性寺(二本松市)阿弥陀如来坐像 貞治四年(1365道円とともに
  西光寺(古殿町)釈迦如来坐像  応安四年(1371) 本像
  西光寺(古殿町)地蔵菩薩坐像  応安七年(1374)   

] 修復工程
●修復基本方針
  ・御像の歴史を尊重した文化財としての修復を行った。安易な塗り直し修理は行わなかった。
   ・台座、光背を解体修復し、安心して御像の保存が行えるようにした。御像に合わせた現状維持修理を基本とした。
   ・光背周縁部は後世に補われたもので、像容に合っていない。展示の際などには、着脱出来るよう、背面に竹釘で留める事とした。
   ・天冠は造像当初のものと考えられるので、頭部に戻した。
   ・剥落止めには再修理が可能な膠を使用することとした。
   ・台座の下に置かれている台の表面補修を行った。
   ・台座、光背の欠失した漆塗膜は、御像とのバランスを考え、過度に復元せずに、剥落止め処置と必要な部分に際錆の処置を行い、現状維持修復を基本とした。
   ・華足は新補しない方がいいとのご助言をいただいた。

[台座・光背]
 1.搬出
    薄葉紙、紙座布団などを使用して厳重に梱包して搬出した。 
 2.修復前写真撮影
    修復前の状態を写真に記録した。
 3.清掃
    ホコリやススを刷毛で除去した。
 4.クリーニング
    薬剤などを用いてクリーニングを行い、ホコリ、ススを除去した。
 5.剥落止め@
    下地に膠水溶液を吸わせ強化した(23回)。
 6.剥落止めA
    剥離している塗膜を膠水溶液と電気コテを用いて貼り付けなおした。
 7.解体
    台座・光背を一旦解体した。
 8.鉄釘除去
    腐食した鉄釘を除去した。
 9.釘穴補修
    釘を除去した穴にヒノキ材を差し込み接着した。
 10.内部補強
    解体しない方がいいと考えた部材(三段框)は、内部より接着剤の注入を行い構造を強化した。
 11.解体写真
    解体した状態を写真に記録した。
 12.組み立て@
    部材を麦漆、エポキシ樹脂系接着剤、真鍮釘、ステンレス釘、竹釘を併用して各段ごとに組み立てた。
 13.矧目処理 
    部材の矧目を漆木屎(漆+小麦粉+木粉)を用いて補修した。
 14.新補
    蓮弁先の欠失部分、華盤の先。框の一部、獅子の尻尾、光背頭光・身光部の縁など、大きな欠失箇所はヒノキ材を彫出して新補した。
 15.補修
    形状の欠失箇所を漆木屎で補修した。
 16.際錆
    施すべき部分に際錆を施した。
 17.下地
    補修部分に下地を施した。
 18.漆塗り
    下地を施した部分に塗り漆を塗った。
 19.漆箔
    漆箔を施すべき部分に漆箔を施した。
 20.色合わせ
    補修部分のみに周辺と違和感のないよう補彩を施した。
 21.組み立てA
    各段を心棒に通した。
 22.台の補修
    台座下の台は、欠失部分を漆木屎で補修し、表面に松煙蒔き仕上げで光沢の出ない漆塗りを行った。
 23.修復完成写真 
    修復後の状態を写真に撮影し記録した。
 24.修復報告書作成 
    写真、修復図面を用いた修復報告書を作成した。
 25.搬入
    薄葉紙、紙座布団などを使用して厳重に梱包して搬送した。 
 26.安置
    修復工程のご説明後に像を安置した。 

[本体]
 1.清掃
    刷毛でホコリを掃った。
 2.クリーニング
    汚れを、湯や薬剤を用いて除去した。
 3.補修
    小欠失箇所と、矧目の割れを漆木屎を用いて補修した。
 4.胎内銘赤外線記録
    胎内銘を赤外線写真で記録した。
 5.色合わせ
    金箔や顔料を用いて補修部分を目立たなくした。
 6.白毫珠接着
    白毫珠を付け直した。
 7.天冠装着  
    天冠を装着した。

◆修復後記
・南北朝時代の御像の台座と光背が大きな塗り直しが無く残っている事は非常にまれで、貴重な御像でした。また天冠も造像当初のものが残されていて貴重でした。
・光背の周縁部は後補のものでしたので、後々簡単に外せるように付けました。


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