木造阿弥陀如来立像 [新潟県指定有形文化財]
鎌倉時代 13C半ば 像高 113.8
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新潟県のお寺(時宗)
●修復前
●修復後
●損傷状況
古い漆塗膜の断文
●解体
●半分クリーニング
X 形状
[本体]
螺髪旋毛形。肉髻珠・白毫相をあらわす。耳朶環状。右手は屈臂して胸脇で掌を前に向けて第1・2指を捻じる。左手は垂下して掌を正面に第1・2指を捻じる。内衣・覆肩衣・衲衣・裙を着ける。(内衣は胸元に少しあらわす。覆肩衣は右肩から右腕に懸かり、右胸下では一度たるませて衲衣にたくしこむ。衲衣は右肩に少し懸かり、端を左肩に懸け、上縁を大きく折返す。左襟で衲衣の初層を上層の縁に懸ける。)裾は正面で右前に打合わせる。左足を少し前に踏出して台座上に立つ。
[台座]
蓮華六重座。蓮肉(蓮弁彫り出し、左右端を折返す)。反花(左右端を折返す)。欄干(見付け部に紗綾型紋の彫刻、前方4つの柱に彫刻と擬宝珠)。受け座(入隅。見付け部に彫刻。正面部だけに梅の彫刻)雲座(雲と波の彫刻)。框。
[光背]
蓮弁形光背。頭光(八葉蓮華の周縁に3条の紐)。身光(周縁に3条の紐。光脚。中央部分を切り抜く。2本のホゾ)。周縁部雲烟浮彫り。
Y 構造・技法
[本体]
寄木造り。漆箔。玉眼嵌入。肉髻珠金属製(嵌入)。白毫木製(嵌入)。頭体幹部は背面を除き縦一材より彫成、背面から内刳りの上、割首、頭部は耳後ろで前後に割矧ぎ、頭頂に一材を補う。背面は後頭部一材、体部は左右二材正中矧ぎとし、背部に左右二材の薄板材を貼る。左右体側部材(それぞれ地付きまで至る)と両肩より別材を寄せる。左前膊内側で内側袖を矧ぎ寄せる、衲衣下層の袖材を別材で挿入。左手首挿込み矧ぎ。右外側の体側部材は前膊とそれに懸かる外側の袖を含む。前膊の内側に別材を矧ぎ寄せる。右手首挿込み矧ぎ。両足先を矧ぐ。足ホゾはすべて幹部材から造り出す。表面布張り錆下地漆箔。
[台座]
蓮肉(6方より材を寄せ、天板3材を寄せる)。反花(6方より材を寄せる)。欄干(6方より材を寄せ、欄干板6枚、柱4本、擬宝珠4個をそれぞれ寄せる)。受座(6方より材を寄せる。梅の彫刻を寄せる)。雲座(6方より材を寄せる)。框座(6方より寄せる)。表面膠下地漆箔。
[光背]
頭光・身光部は左右2材よりなる。周縁部は頂上に一材、左右にそれぞれ1材と下部に小材を数材寄せる。
表面膠下地漆箔。
Z 後補箇所
頭頂部矧木。後頭部材。左手首先。右足先。左玉眼。台座・光背は江戸後期のもの。
[ 損傷状況
[本体]
・矧目が遊離して、大きく隙間のあいている箇所が多くあり、構造が弱くなっていた。
・表面漆箔にスス汚れが付着していた。
・表面漆塗膜が剥離・剥落している箇所があった。
・両足先が遊離していた。
・左眼玉眼が後世のガラスに変わっており、形状が合っていなかった。
[台座]
・天板が薄く、損傷していることで、像が安定していなかった。
・光背?穴部分の構造が弱くなっていた。
・受座背面部材が欠失していた。最下段の框が欠失していた。
・表面がススによって汚れていた。
・光背?を受ける部材の矧ぎ目の遊離が進み、ガムテープで留められていた。
・ネズミにかじられた欠失箇所があった。
[光背]
・以前矧目が遊離した部分を木工ボンドによって補修されていた。
・表面がススによって汚れていた。
・小材が欠失していた。
\ 所見
[本体]
・写実的な面相や着衣の表現、服装の形式(内衣を胸元に表す。右襟下に
・表面漆箔は、断文の出方などにより、造像当初のものと考えられる。
・残念ながら胎内に墨書等は発見出来なかった。
・部材は膠と銅鎹、銅釘で留められて、一度も外されたことのない部材も多かった。
[台座]
・矧目が強固な部分もあり、漆塗膜の切れていない部分は、解体を行わな
[光背]
・以前、木工用ボンドによって矧ぎ目を修理されており、これを除去して 解体修復を行った。
] 修復工程
●修復基本方針
・像の造像当初の彫刻形状を生かした、歴史を尊重した修復を行った。塗り直しなどの安易な修理方法は一切とらなかった。
・後補部材は、頭頂部と後頭部は像に形状が合わないため作りなおす必要があった。左手先、右足先はそのまま使用した。
・後補の左玉眼はガラス製で形状があっていなかったため、新補すること
[本体」
1.搬出
薄葉紙、紙座布団で損傷しないよう厳重に梱包した後、搬出を行った。
2.修復前写真撮影
修復前の記録として、像全体と損傷箇所を写真におさめた。
3.清掃
表面のホコリを除去した。
4.剥落止め@
下地の強化のために膠水溶液を塗布した。
5.剥落止めA
表面漆塗膜を膠水溶液と電気コテによって剥落止め処置を行った。
6.解体
右内袖以外の部材を矧ぎ目から一旦解体した。
7.表面クリーニング
薬剤や湯によって汚れを緩ませ、スス汚れを除去した。
8.解体写真
解体した状態を写真に記録した。
9.玉眼新補
左玉眼を水晶にて新補した。
10.組み立て
麦漆とエポキシ樹脂系の接着剤と錆びない真鋳釘を併用し、接合を行った。
11.矧ぎ目補修
漆木屎(漆+小麦粉+木粉)を用いて材の矧ぎ目を充填整形した。
12.小欠失箇所補修
小欠失箇所に漆木屎を用いて補修を行った。
13.欠失箇所新補
大きな欠失箇所には桧材を彫出して新しく補った。
14.修復銘札作成
今回の修復の記録として、桧板に墨書して頂いた修復銘札を像内に納入した。
15.漆塗膜下地補修
矧ぎ目補修部分や漆塗膜欠失箇所にのみ漆錆下地を施した。
16.補彩
補修部分にのみ周囲と違和感のないよう、顔料などを用いて補彩を施した。
17.完成写真
修復後完成写真を撮影した。
18.修復報告書作成
修復前後と修復中の作業写真を用いた修復報告書を作成した。
19.搬入
薄葉紙、紙座布団で損傷しないよう厳重に梱包し、搬送、堂内に搬入した。
20.修復概要の説明
修復作業の概要について説明を行った後に安置を行った。
[台座]
1.部分解体
解体すべき部材を一旦解体した。
2.剥落止め@
下地の露出している部分に膠水溶液を吸わせ、強化した。
3.剥落止めA
剥離している漆塗膜を膠と電気コテを使用して止めた。
4.鉄釘・鉄鎹除去
錆びて木材を傷める鉄釘・鉄鎹を全て除去した。
5.釘穴補修
釘穴に桧棒を差し込み接着し、釘穴を補修した。
6.クリーニング
スス汚れを薬剤や湯で緩ませ除去した。
7.解体写真
解体した状態を写真に記録した。
8.組み立て@
麦漆やエポキシ系接着剤、錆びない真鋳釘を併用して、段ごとに組み立てを行った。
9.矧ぎ目補修
漆木屎(漆+小麦粉+木粉)を用いて材の矧ぎ目を充填整形した。
10.小欠失箇所補修
小欠失箇所に漆木屎を用いて補修を行った。
11.新補
受座後方部材、框座4材をヒノキ材にて新補した。
12.補強材
補強すべき部分に補強材を新補した。
13.足?固定の部材新補
天板が薄く像の安定を欠いていたことから、足?固定の補強材を新補した。
14.漆塗膜下地補修
矧ぎ目補修部分や漆塗膜欠失箇所にのみ膠下地を補修した。
下地を補修した部分にのみ塗り漆を塗った。
16.漆箔
漆を塗った部分にのみ周辺と違和感のない金箔を選び、補箔した。
17.補彩
補修部分にのみ周囲と違和感のないよう、顔料などを用いて補彩を施した。
18.組み立てA
各段を組み立てた。
[光背]
1.解体
後世の木工用ボンドを除去しつつ、全ての部材を一旦解体した。
2.剥落止め@
下地の露出している部分に膠水溶液を吸わせ、強化した。
3.剥落止めA
剥離している漆塗膜を膠と電気コテを使用して止めた。
4.鉄釘・鉄鎹除去
錆びて木材を傷める鉄釘・鉄鎹を全て除去した。
5.釘穴補修
釘穴に桧棒を差し込み接着し、釘穴を補修した。
6.クリーニング
スス汚れを薬剤や湯で緩ませ除去した。
7.解体写真
解体した状態を写真に記録した。
8.組み立て@
麦漆やエポキシ系接着剤、真鋳釘を併用して、組み立てた。
9.矧ぎ目補修
漆木屎(漆+小麦粉+木粉)を用いて材の矧ぎ目を充填整形した。
10.小欠失箇所補修・新補
小欠失箇所に漆木屎を用いて補修を行った。大きな部分はヒノキ材で新補した。
11.台座?穴補修
安定するよう、台座?穴を補修、強化した。
12.漆塗膜下地補修
矧ぎ目補修部分や漆塗膜欠失箇所に下地を補修した。
13.漆塗り
下地を補修した部分にのみ塗り漆を塗った。
14.漆箔
漆を塗った部分にのみ周辺と違和感のない金箔を選び、補箔した。
補修部分にのみ周囲と違和感のないよう、顔料などを用いて補彩を施した。
◆修復後記
・表面のスス汚れを除去するだけでも、元々の凛々しい表情が甦った。
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