木造如浄禅師坐像
明治時代  像高
 140cm 

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神奈川県 横浜市 大本山總持寺 仏殿      

●修復前後





●修復作業
補修(盛り上げ彩色を漆木屎で補修)
色合わせ

 Y 形状
円頂。耳朶貫かず。閉口。左手は屈臂し、腹前にて掌を腹側に向け五指を捻じ、払子の紐を執る。右手は屈臂し腹前にて掌を腹側に向け五指を捻じ払子を執る。法服、裙、袈裟を着け、円鐶で吊る。袈裟に宝相華文。椅子上に坐す。沓を置く。

●天童如浄禅師(てんどうにょじょうぜんじ:11631228
 中国宋の曹洞宗の禅僧。天童山景徳寺(浙江省寧波地区)の第31世住職を務めた。『如浄禅師語録』が伝えられる。日本曹洞宗の開祖道元禅師が師事したことで知られる。

Z 品質・構造
 [本体]
  木造寄木造り。玉眼嵌入。内刳りあり。挿首。頭部は、耳の中心で前後に剥ぎ寄せ、内刳りを施し、玉眼を嵌入する。体幹部は3材を寄せ、内刳りを施す。左右体側材を寄せ、両袖口、両手先を寄せる。両脚部に横一材を寄せ、裳垂下部に板材を寄せ、袖先に数材を寄せる。玉眼水晶製。矧目に紙貼り。膠下地、胡粉による盛り上げ、黒塗り。

 [台座]
  木造。膠下地漆塗り、一部漆箔。飾り金具。

[ 損傷状況・後補箇所
 ●損傷状況
 [本体]
  ・表面の彩色が経年によって脆弱化し、剥離・剥落していた。
  ・左側頭部の矧目が開いていた。

 [椅子]
  ・構造が弱まっている。
  ・座面の彩色が経年によって脆弱化し剥離・剥落していた。
  ・漆塗膜が剥離剥落している箇所があった。
  ・小欠失個所が多数あった。
  ・背もたれの金箔が剥落していた。
  ・金具の金の輝きが失われていた。

 ●後補箇所
  なし

\ 所見
 ・構造的にはまだ弱まっておらず、矧目も開いていない事から、解体修復を行う時期には来ていないと考えた。
 表面の塗膜は造像当初のものと考えるが、手間をかけて胡粉による盛り上げを行った上に黒色の彩色が施されている。費用的な問題でこのような仕上げになったのか、意図的に施されたのかは不明だが、造像時に何らかの理由で、このような仕上げとされており、修復についても現状の様子を伝えるべきかと考えた。対照的に、隣におられる達磨大師と大権修理菩薩は、盛り上げ文様を施し、全体に漆塗り、漆箔、彩色が施されており非常に手間をかけて作られている。この仕上げの違いは何から来ているのか興味深い。
  ・近代に制作されている事もあり、寺に残る文献や寺史を紐解けばこのような仕上げをされている理由も書かれている可能性もある。
 ・椅子は御像の威儀を整える為に、金箔を戻した。金具は元々鍍金ではなく、緑青仕上げが行われていると考える。

] 修復基本方針
  ・御像の歴史を尊重した文化財としての修復を行う。安易な塗り直し修理は行わなかった。
  ・現状の黒塗りの御像に歴史的な意味があると考え、現状維持修復を基本とした文化財的な修復を行った。

[本体] 
  ・容易に外れてしまう部材のみを解体した。
  ・頭部を外し、胎内からも構造強化を行った。。
  ・表面彩色全体を剥落止めし、剥落部分にのみ補彩を施した。

[椅子]
  ・背もたれ部分の金箔は貼り直した。
  ・容易に外れる部分が多いことから一旦解体し修復を行った。
  ・椅子座面の彩色は欠失部分を復元した。

]T 修復工程

[本体]
 1.搬出
    薄葉紙、紙座布団などを使用して厳重に梱包して搬出した。 
 2.修復前写真撮影
    修復前の状態を写真に記録した。
 3.部分解体
    容易に外れる部分のみを一旦解体した。
 4.表面強化
    像表面を強化するために膠水溶液を塗布する。
 5.剥落止め
    浮き上がっている彩色塗膜を膠水溶液と電気コテで剥落止めした。
 6.樹脂構造強化
    像底や胎内などから矧目にアクリル樹脂を注入し、構造を強化した。
 7.組み立て
    麦漆、エポキシ樹脂系接着剤、ステンレス釘等を併用して組み立てを行った。
 8.補修
    欠失箇所、矧目に漆木屎(漆+小麦粉+木粉)を用いて補修を行った。
 9.補彩
    彩色の剥がれた部分に補彩を施した。
 10.下地
    彩色剥落箇所と補修箇所に膠下地を施した。
 11.修復銘札納入
    今回の修復の記録として、尊像名、修復年月日、ご住職様名、修復に関わった人の名、修復工房名などを桧板に墨書していただき、像内に納入した。
 12.修復完成写真
     修復後の状態を写真撮影し記録した。
 13.修復報告書作成
    写真を用いた修復報告書を作成した。
 14.搬入
    薄葉紙、紙座布団などを使用して厳重に梱包して搬送した。 
 15.安置
    修復工程のご説明後に像を安置した。 

[台座](本体と同一工程は省略)  
 1.解体
    部材を一旦解体した。
 2.解体写真
    解体した状態を写真に記録した。
 3.補修
    欠失部分を漆木屎で補修した。
 4.下地
    補修した部分にのみ下地を施した。
 5.漆塗り
    下地を塗った部分にのみ塗り漆を塗った。
 6.漆箔
    必要な部分に漆で金箔を貼った。
 7.金具鍍金 
    金具は一旦外し、鍍金を施した。
 8.色合わせ
    補修した部分にのみ色を置き、周囲と違和感のないようにした。

 

◆修復後記
・明治時代の彩色は非常に弱く、剥落止めが非常に大変でした。塗り替えて別人になってしまうのではなく、文化財としての修復方法で、歴史を経た姿を守る事が出来よかったです。
・修復については、機関誌の『跳龍』に書かせていただきました。


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