木造観音菩薩立像
室町時代
     像高   38.3cm

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福島県のお堂     

  

 X 形状
 [本体]
  垂髻。前面のみの山形の宝冠を彫出する。その前に銅製透彫鍍金の宝冠を戴く。天冠台彫出(一条の列弁文帯)。天冠台下、地髪部前面毛筋彫。後頭部平彫。白毫相をあらわす。耳朶は貫かない。三道彫出。天衣、条帛をかける。胸飾をつける。左手屈臂して前に出し、五指をまげて蓮茎をとる。右手垂下して軽くまげ掌を前に向け、第1,2指を捻じ余指を軽くのばす。腰布をつけ、裳(折り返し付き)をつけ、両足をそろえて立つ。天衣は両肩より垂下し、各肘前にかかり、それぞれ体側に垂下し台座蓮肉上まで達する。各腕釧彫出(二条の紐)。

 [台座]
  六重蓮華座[蓮台。敷茄子(透かし彫り)。受座。蕊。反花。框座]。

 [光背]
  円光背を台座より立てる。背面に大日如来立像(智拳印を結ぶ)

 [厨子]
  木瓜型。

Y 品質・構造
  [本体]
  木造一木造り(ヒノキ材か)。彫眼。彩色。白毫水晶製嵌入。宝冠、胸飾銅製透彫鍍金。垂髻上より山形の宝冠及び両腕をも含んで頭体通して、台座蓮肉部の大部分まで一材で彫出する。内刳はない。両手首より先をそれぞれ矧ぐ(後補か)。左肩先端より肘および肘前にかかる天衣の一部まで含んで一材を左上膊部外側に矧ぎ足す(後補か)。左体側に垂下する天衣遊離部は頭体材より彫出する。右上膊部より肘先まで一材を右上膊部外側に矧ぎ足す(後補か)。右体側に垂下する天衣遊離部(肘前より台座蓮肉部上にかかるところまで。後補)は一材を矧ぐ。肉身部白色顔料彩。条帛、腰布朱彩。

[台座]
  蓮肉:当初の蓮肉を後補の蓮肉(前後2材)に嵌め込む。蓮弁彫り出し。
  敷茄子:1材を一旦割り離して透かし彫りを施し、漆箔板(亡失)を挿入する。
  受座:前後2
  蕊 :6材を寄せる。
  反花:6材を寄せる。
  框座:6材を2段に寄せる。内部に心棒を通す板材を前後に渡す。
  蓮肉より框まで心棒を通す。表面膠下地漆箔。

[光背]
 輪部分2材製。軸1材製。表面膠下地漆箔。軸背面に金剛界大日如来立像と板材(転用材)を付ける。

[厨子]
  屋根前後2材。左右の扉をそれぞれ2材で寄せる。側面と背面は5材を寄せる。框は4材を回し、上に板材を1材載せる。表面膠下地漆塗り、内部漆箔。

Z 損傷状況・後補箇所
 ●損傷状況
  ・東日本大地震により転倒し、損傷したが、膠が経年劣化し、弱くなっ
ていたことも一因と考える。
[本体]
   ・両手先の接合がずれている。(過去に木工用ボンドで接合か)
   ・右手指の損傷。右手首の小欠失している。
   ・両天衣の矧目が目立つ。

[台座]
   ・台座の敷茄子より下が分解している。
   ・漆塗膜が剥離、剥落している。
   ・敷茄子透かし彫り内の漆箔板が亡失している。

[厨子]
  ・厨子の框部分、背面部分が分解している。
  ・外れていない部材も矧ぎ目が遊離している部分がある。
  ・漆塗膜が剥離、剥落している。
  ・厨子外側が長年のホコリ、ススによって汚れている。
  ・厨子扉がネズミよって咬害されている。

●後補箇所
  ・銅製透彫鍍金の宝冠、胸飾。両手先。左手持物。垂下する右天衣。
  ・台座、光背、厨子。 

[ 所見
  ・後世に補われた台座と厨子が東日本大震災によって損傷した。数か所以前に木工ボンドで補修されているところも見受けられ、膠が経年劣化によっ弱くなっていたと考えられる。
  ・御像は、両肘の部分を寄せているものの、蓮肉上面まで共木で作られ、蓮肉上面に共木で天衣が彫出され平安時代の御像を模して造られたと推定される。
  ・江戸時代後期に台座、光背、厨子を後世に作り足されるなど大事に守られてきたのが分かる。
  ・今回厨子から台座が外れたことで、光背軸背面に小さな金剛界大日如来立像(智拳印を結ぶ)の存在が分かった。

\ 修復工程
 修復基本方針
  ・御像の歴史を尊重した文化財としての修復を行う。安易な塗り直し修理は行わなかった。
  ・像本体の損傷は今回の震災のものではないが、御像の今後の保存の為にも、きちんと修復を施す事とした。台座、厨子についても、震災以前よりあった損傷も補修した。
  ・外れた部材を接合し、矧目を目立たないように補修した。
  ・外れていない部材は内部補強を行い、外れないように処置を行った。
  ・剥落した漆塗膜、漆箔は、震災以前の損傷も補修した。

[本体]
  1.搬出
     薄葉紙、紙座布団などを使用して厳重に梱包して搬出した。 
  2.修復前写真撮影
     修復前の状態を写真に記録した。
  3.剥落止め
     表面彩色に膠水溶液を吸わせ、強化した。
  4.解体
     木工用ボンドを溶剤で緩ませ、両手先、両天衣を一旦解体した。
  5.解体写真
     解体した状態を写真に記録した。
  6.組み立て
     麦漆、エポキシ樹脂系接着剤を併用して組み立てた。
  7.矧目処理、補修
     矧目と小欠失箇所を漆木屎(漆+小麦粉+木粉)を用いて補修した。
  8.色合わせ
     補修箇所にのみ色を置き、周囲と違和感のないようにした。
  9.修復後写真
     修復後の状態を写真に撮影し記録した。
  10.修復報告書作成
     写真を用いた修復報告書を作成した。
  11.搬入
     薄葉紙、紙座布団などを使用して厳重に梱包して搬送した。 
  12.安置
     修復工程のご説明後に像を安置した。

[台座・光背]
  1.解体
     解体すべき部分は、一旦解体した。
  2.剥落止め@
     膠下地に膠水溶液を含浸し強化した。
  3.解体写真
     解体した状態を写真に記録した。
  4.組み立て@
     部材をエポキシ樹脂系接着剤を使用して各段ごとに組み立てた。
  5.新補
     敷茄子内部の漆箔板をヒノキ材を彫出し新補した。
  6.内部補強
     解体しなかった部材は、内部より接着剤の注入や、補強材を挿入し構造を強化した。
  7.剥落止めA
     剥離、剥落した漆塗膜と膠と電気コテを使用して、貼り付け直した。
  8.クリーニング
     表面の汚れを軽くクリーニングした。
  9.矧目処理
     部材の矧目を漆木屎(漆+小麦粉+木粉)を用いて補修した。
  10.下地
     補修部分、漆塗膜の欠失部分のみに膠下地を施した。
  11.漆塗り
     下地を施した部分に塗り漆を塗った。
  12.漆箔
     漆箔を施すべき部分に漆箔を施した。
  13.色合わせ
     補修部分のみに周辺と違和感のないよう補彩を施した。
  14.組み立てA
     各段を心棒を通し接合した。

[厨子]
 1.部分解体
    背面の外れてしまった部分と、框の外れてしまった部分のみを解体した。
 2.樹脂注入強化
    解体を行わない部分には、矧目よりアクリル樹脂を注入し構造を強化した。
 3.剥落止め@
    膠下地に膠水溶液を含浸し強化した。
 4.解体写真
    解体した状態を写真に記録した。
 5.組み立て
    部材をエポキシ樹脂系接着剤を使用して組み立てた。
 6.剥落止めA
    剥離、剥落した漆塗膜と膠と電気コテを使用して、貼り付け直した。
 7.クリーニング
    厨子外面の汚れを薬剤なども用いてクリーニングした。
   
内面の金箔は剥がれやすい場合も多く、状況をみて処置した。
 8.矧目処理
    部材の矧目を漆木屎(漆+小麦粉+木粉)を用いて補修した。
 9.下地
    補修部分、漆塗膜の欠失部分のみに膠下地を施した。
 10.漆塗り
    下地を施した部分に塗り漆を塗った。
 11.漆箔
    漆箔を施すべき部分に漆箔を施した。
 12.色合わせ  
    補修部分のみに周辺と違和感のないよう補彩を施した。

 

◆修復後記


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