木造金剛力士立像  [市指定有形文化財]
南北朝時代(観応三年=1352) 
[阿形] 
像高 259.5 [吽形] 像高 261.5

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新潟県の寺院(真言宗) 

◆修復後記
・非常に大きな御像で、修復のしがいがありました。触ると凹んでしまうくらい表面は強度が失われていました。木目がくっきりと等高線のようになっており、木の風合いを残して、強化し、修復を行いました。
・この御像の持っていた良さと迫力を引き出すような修復が出来たのではないかと考えます。
・木の含浸強化に木材の風合いをなくさないように、濡れ色が出ないように、冬目と夏目のコントラストが出ないように工夫しました。
・修復を通じて、地区の活気が戻ったように思います。ご寄附を地域から出られたかたや、企業にも求められ、仁王様だけでなく、仁王門まで修理されてしまいました。仏像修復が地域活性化にも役立つ事が分かる事例となりました。

修復前

修復後

銘文:観応三年(1352)

●損傷状況







●修復作業
解体  補修

修復銘札(100年〜200年後の子孫へのメッセージ。タイムカプセル)


阿形補修状況
吽形補修状況







T 形状
[阿形]
 
三山髻。頭飾。瞋目。開口。上半身裸形。左腕は上方に引き上げ、屈臂し五指を捻じ持物(金剛杵)を執る。右腕は体側に沿わせて垂下し、掌を下に五指を開く。裙を着ける。裸足で左足を立脚に右足を遊脚にして仁王門床上に立つ。

[吽形]
 
三山髻。頭飾。瞋目。閉口。上半身裸形。左腕は体側にて、屈臂し腰前にて五指を捻じる。右腕は体側ににて屈臂し,腰前にて掌を正面に五指を開く。裙を着ける。裸足で右足を立脚に左足を遊脚にして仁王門床上に立つ。

U 品質・構造
[阿形]
  
杉材。頭体幹部一木割り矧ぎ造り。背面腰裳の下にノコギリで切れ目を入れ、耳後ろを通る線で一旦割り離し、内刳りを施す古風な技法。を用いている。彫眼。割り首。左腕は上腕、前腕、手先3材を寄せ、別材で持物(上下より差込み)を寄せる。右腕は、上腕前腕、手先の2材を寄せる。両肩には角度調整の為にマチ材を挿入している。背面腰裳に別材を矧ぎ寄せる。裳先に別材を矧ぎ寄せる。足先にそれぞれ別材を寄せる。表面は元々、膠下地彩色。

 [吽形]
  
杉材。一木造。背面材を矧ぎ寄せる。彫眼。割り首。内刳りあり。左腕は上腕、前腕、手先の3材を寄せる。右腕は手先に4材を寄せ、上腕、前腕を寄せる。両肩に不足材を寄せる。右腰に別材を寄せる。左の裳先に数材を矧ぎ寄せる。足先にそれぞれ別材を寄せる。表面は元々、膠下地彩色。

V 損傷状況・後補箇所
 ●損傷情況
  
・長年の土ほこりにより表面が汚れていた。
  ・像表面の木質が経年劣化によって風化し、強度が失われていた。
  ・木質が腐朽し、強度が失われている箇所があった。
  ・全ての鉄釘、鉄鎹が腐食し、切れてしまっている部分があり、矧ぎ目が遊離または、部材が脱落していた。
  ・足先の部材が脱落しており、像の安定が危ぶまれた。
  ・形状の欠失した箇所がいたるところにあった。
  ・風化によって彫刻形状が失われている部分があった。
  ・阿形持物の先端。吽形持物が失われていた。
 
 ●後補箇所
  ・阿形右手先、阿形右足先、吽形両足先に後補の部材が付けられているが、ほとんどの部材は造像当初のものを伝えていると考える。
  ・天衣は後補。阿形持物(金剛杵)は後補。

W 墨書など

・阿形像裳材

  「観応三年歳次辰九月日」観応三年=1352
   平滑に整えられた面に墨書されている。造像当初のものと推定。

 ・阿形後頭部材

   慶長十年(1605の墨書。消えかけていて読めない部分も多い。粗く整えられていない面に墨書。後世のものと考える。

 ・吽形頭部正面材首

   「慶長拾年」(1605の記述。表面を木賊などで削った上に書かれており、後世のものと考える。

 X 修復工程
 ●修復基本方針

  ・塗り直しなどの安易な修理方法は一切とらなかった。
  ・本像の現状の木質表面の雰囲気を尊重した修復を行った。
  ・全ての部材を解体し、部材の強度を回復し、根本的に修復を行った。

  1.搬出 
    薄葉紙、紙座布団で損傷しないよう厳重に梱包した後、搬出を行った。   
  2.修復前写真撮影    
    修復前の記録として、像全体と損傷箇所を写真におさめた。(足ホゾの腐朽によって立てる事が出来ず、背面の写真を
    撮影する事が出来なかった。
  3.燻蒸処置
    薬剤にて害虫を駆除した。
  4.清掃
    表面のホコリを刷毛などで除去した。
  
5.像表面の強化@ 
    像表面は予想以上に劣化し、強度が無くなっていたことから、解体前に全体を強化する必要があった。
    しかし、直に合成樹脂を含浸すると、冬目と夏目のコントラストがきつくなり、見づらくなる事から、処置を工夫した。
  6.解体
    全ての部材を一旦解体した。
  7.鉄釘・鎹除去
    鉄釘は、腐食し、膨らんで材を割り、錆のイオンによって木材を炭化劣化させるので、これを全て除去した。
  8.像表面の強化A
    アクリル系樹脂を用いて部材を強化した。
  9.腐朽部分の強化
    アクリル系樹脂の濃度の高い溶液を用いて腐朽した木質を強化した。   
  10.木質強化
    著しく強度が低下した構造に関わる部分にはエポキシ系樹脂を注入して強化した。 
  11.解体写真
    部材を並べて解体した情況を写真に記録した。
  12.赤外線観察
    部材一つ一つの墨書の有無を赤外線カメラを用いて確認した。
  13.作業用仮台座の制作
    工房内で像を立てるために、作業用の仮台座を制作した。
  14.釘穴補修
    釘穴を再利用するものは、穴をアクリル樹脂で強化した後、ヒノキの棒を挿入して補修した。
  15.虫食孔補修
    虫食孔に漆木屎(漆+小麦粉+木粉)を用いて充填整形し補修した。
  16.欠失箇所新補
    大きな欠失箇所は、ヒノキ材を彫出して、新しく補った。
  17.組み立て

    麦漆、エポキシ系接着剤、錆びないステンレス釘、木ネジ、鎹を併用して組み立てた。
  18.矧ぎ目・小欠失箇所補修
    部材同士の矧ぎ目(つなぎ目)に漆木屎を充填整形して、形状の連続をとった。
  19.小欠失箇所補修
    小欠失箇所に漆木屎を用いて補修を行った。
  20.修復銘札作成
    今回の修復の記録として、桧板に墨書して頂いた修復銘札を像内に納入した。
  21.補彩
    補修部分にのみ周囲と違和感のないよう、顔料などを用いて補彩を施し目立たなくした。  
  22.完成写真 
    修復後の記録写真を撮影した。   
  23.修復報告書作成 
    修復前後と修復中の作業写真を用いた修復報告書を作成した。  
  24.搬入
    薄葉紙、紙座布団で損傷しないよう厳重に梱包し、搬送、二王門内に搬入した。  
  25.修復概要の説明
    像を安置した後に修復作業の概要について説明を行った。

Y 修復所見
  ・像内より観応三年(1352)の銘文が見つかり、造像年代はその頃と考える。一方で頭部より慶長の銘文(修理銘か)も見つかり、像がどのように伝世してきたのか考察する必要がある。
  ・構造技法の観点では、阿形像は一木割り矧ぎ構造で、非常に古風なものであった。近世の仁王像に多い挿首ではなく、きちんと割り首も行われている。上半身や腕、足の造形には古風なものであり、腹の形状も柔らかい。衣文も渦を巻いてはいない。
  ・修復前には触ると凹む程に、像表面は脆弱化していたが、樹脂含浸により強化出来た。また、含浸強化の際に木材の雰囲気を残しつつ、濡れ色の出ないよう工夫して、木の風合いと木目を生かした、像の造形的に良い部分を生かした修復をする事も出来た。


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