◆◆より永く保存するために◆◆

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保存修復まめ知識→より永く保存するため

 

 仏像が安置されているお堂の中は、博物館のような管理された環境ではないですが、木造のお堂は、温湿度の変化が緩和され、像に直射日光が当たる事もないので、保存環境としては悪くないと思います。千年もの間、伝世された像がある所以です。

 それに加えて、幾つかの事を注意する事で像への負担を減らし、より永く保存していく事が出来ます。少しの気遣いで仏像の損傷を喰い止められます。

 一番重要な事は、普段から人が、像の様子をよく見ている事です。秘仏として何十年に一回の御開帳の像でも責任者だけは、像の状態を確認しておくことが必要です。

 損傷が見つかったら早めの修復。かかりつけの修復家に相談。日頃のメンテナンスが重要です。

◆湿気をこもらせない
 湿度が高くなると木材腐朽菌の活動が活発になり、腐朽が進行します。また、表面にカビが生えやすくなり、害虫の動きも活発になります。
厨子に入っている像は時折扉を開けて、湿気が籠る事を予防しましょう。

 全面に漆塗りが施された御厨子等は、気密性が良すぎて湿気がこもりがちになります。素木のものの内部は木材が吸排湿をし、調湿してくれ、保存環境として良いです。
 掛け軸でも、桐箱の中に入れる事で、外気の温湿度の変化が緩和されて、案外保存環境が良いということで見直されています。昔の人の知恵です。

◆乾燥させない
 空気が乾燥し過ぎると、木材が乾燥し、干割れが生じます。
 風が直接像に当たると、木材表面の水分が蒸発し、干割れが起ります。

◆湿度を一定に保つ
 
乾燥と湿気によって、像の材料である木材が、収縮と膨張を繰り返す中で、表面の彩色や漆塗りがその動きについて行けなくなる事が、表面剥落の原因の一つとなります。したがって、博物館では温湿度を一定に保つという事を行っています。
 木造建築の内部は割合に、温湿度の変化が緩慢になっており、良い保存環境となっています。千年もの長きを伝世され、造像当初の表面彩色が見事に残っている像がある所以です。

◆紫外線にさらさない
 日光や蛍光灯の光の中に含まれる紫外線は、像表面に施された漆塗りを劣化させます。艶が無くなり、最終的にはには消滅します。博物館では、窓には紫外線カットフィルターを貼り、蛍光灯は紫外線を発しないものを使用して、漆塗膜を劣化させぬよう注意を払っています。
紫外線は、他にも木材、彩色、布等の素材全てを劣化させる要因となります。薄暗い堂内に仏像が安置されてきた事は理にに叶っています。

◆食物を堂内に放置しない
 御供物などの食べ物を堂内に放置しておきますと、ねずみやゴキブリを呼び、それらが像をかじる恐れがあります。
 ねずみは仏像の内部に巣を作ってしまう事もあります。

◆虫食いの穴を見逃さない
 虫食いの穴が像表面に増えた場合には、その害虫が像内部で増殖する危険性もあります。早めの対処で損傷を未然に防ぐ事ができます。

◆雨漏りは決して当たらぬよう
 雨漏りには決して当たらぬようにして下さい。濡れた部分から腐朽、虫食いが起りやすくなります。

◆梅雨時に仏像を動かさない
 梅雨時や夏場等は、仏像を動かす事は避けた方が良いです。気温と湿度が高いと、接着剤として使われている膠が緩んでいる事があるからであり、持った途端に像の部材が外れる危険があるからです。我々も梅雨時の調査には細心の注意を払います。

◆線香の効果
 線香の煙等は防虫の効果があるようです。(あまりたきすぎると煤けて黒くなってしまう恐れはあります。)

◆掃除の時の注意
 はたきや刷毛などは使わずにカメラ用のブロアーでホコリを吹き飛ばせば、像を傷つけることなく像の清掃が出来ます。雑巾等で拭き取ると、表面の金箔や、彩色もとれてしまう場合がありますので注意が必要です。また、薬剤等は、変色、剥落の原因となる場合もありますので、お使いになられない方が無難です。

◆定期的なメンテナンスは必要
 長い間仏像が伝世してきた期間の中で、一度も修理を受けていないものは非常に稀です。大抵の仏像は大なり小なり修復を受けつつ今日に至っています。100〜150年に一度は解体修理をその間に何度かの小修理をというのが一般的でしょうか。昔は近隣に仏像を直す職人がいて、何かあれば修理を頼んでいたでしょうが、近年では、そのようなかかりつけの修復仏師というものがいなくなってしまい、仏像の修復というものが忘れられていたようです。それは、明治以後のほんの2代か3代の間だったのですが、途切れてしまった伝統技法、習慣はなかなか元には戻りにくいのでしょう。したがって、寺院の方も、仏像を直すという事に慣れておらず、どうして良いか分からないというのが現状なのでしょうか。仏像は壊れたままで、何十年も同じ場所に同じ状態で置かれています。まるで時間が止まったようです。それはそれですごい事ですが、木材と膠、漆、鉄釘という脆弱な素材で出来ている仏像は定期的な修復が必要なのだということを知って頂きたいと思います。

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