◆◆仏像の修復とは◆◆
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みなさんは『仏像の修復』に対するイメージをどのようにお持ちでしょうか。

修理と修復の違い

 例えば、車を修理する場合、新品同様にきれいするというのが目的となります。しかし、仏像の場合は『安易な塗り直し修理』を行うべきではありません。仏像を新品同様に塗り直すという事は、像がそれまで生きて来た年月を全て否定する事に他ならず、像の文化財的・歴史的価値をも損ないます。
 仏像は時代を経るに従ってその美しさを増すものです。『像がこれまで歩んで来た年月を尊重した修復』を施すことは、手渡して来た祖先を尊重し、像を尊重し、次の世代に手渡すということになります。

 『文化の手渡し』それが仏像の修復なのです。



仏像の修復を専門に行う職業がある

 仏像の修復は仏壇仏具屋さんにと思われがちですが、仏像修復の専門家もおります。
文化財の保存修復技術・文化財の保存科学・分析科学・仏像彫刻史・修復倫理の知識を持った上で仏像を『歩んで来た歴史を尊重して』『文化財として』『彫刻として』直す専門家です。

 仏像の構造、技法、素材、彫刻史の中での位置付け、望ましい保存環境 等を的確に助言できる専門家です。


 
現代の文化財修復の基本理念

 国宝や重要文化財の仏像は、国(文化庁)からの指導によって現状維持修理を基本に、像のオリジナル部分を尊重した修復を行なっています。国立の博物館で展示されている仏像はそのような基本理念のもとに修復されたものです。
そのような「文化財としての修復」を行なう修復工房は民間にもいくつかあります。

 

塗り直し修理はもっての外

 表面の塗り直しはもっての外です。江戸時代修理時の塗り直しは膠彩色や膠下地による塗り直しなので、お湯を用いればある程度除去が可能な素材ですが、現代の合成塗料は除去が非常に難しく、造像当初の彫刻を傷め、像の時代を経て来た美しさ、これまで伝世してきた歴史、文化財としての価値が損なわれ、取り返しのつかないことになります。
 ピカピカに塗り直されておもちゃのようになってしまった像を見かけることがありますが、時代を経て来た像本来のの美しさを取り戻すことは難しい作業となります。

 近年では、博物館等を見学されたり、仏像の修復についてテレビや書籍で取り上げられたりしておりますので、みなさんの眼が肥えて、塗り直し修理による弊害を感じていらっしゃる方々も多く、仏像の修復に対する価値観というものが少しづつ変化してきてはいます。
 しかし、一方でまだ、塗り直し修理によって仏像が傷められ、像の本来の姿とはかけ離れ、文化財的価値が損なわれていくという現状は残っています。
 こうした修理を受けない為にも、像を次の世代に手渡す責任を持つ方が、きちんとした『修復のイメージ』を持っていただく必要を感じています。


 

像本来の造形を分かりやすくする。見やすくする。のが修復。

 仏像の修復は、きれいになる、新品になるというものを目的としていません。造像当初の造形を分りやすく、見やすくしていくというのが一番の目的になります。

 従って修復行程では、まず以前の修理で塗られたり、付け加えられた補修箇所の除去を行い、造像当初の造形がすっきりと見えるようにします。次に、虫食いや細かな損傷を漆木屎や木材で補っていくと、それぞれの部分で彫刻の造形の力が強まっていき、大きな欠失箇所の造形が見えてくるようになります。そうした行為の繰り返しで像は段階的に直っていくのです。
 ある意味で「像自信がそこに導いてくれる。」「像自身が直っていこうとしている。」と感じる事がよくあります。


 

前時代の塗り直し修理によって覆い隠された造形

 平安・鎌倉時代の像ですと、大小何度かの修理を受けて伝世しています。江戸時代の修理時に施された、ぶ厚い彩色によって、一般の人が見ても造像当初の造形が想像出来ず、正当な評価を受けていない場合が多くあります。表面彩色を取り除くと実は、『古く造形的にも素晴らしい像だった。』ということもよくあります。我々はこの様な修理をされたものを数多く手掛けておりますので、表面の形に惑わされること無く、像を評価することが出来ます。
 またこうした、膠彩色による後補塗り直しは、除去が可能です。除去することで、造像当初の造形に戻し、像を造った当初の人々の思いを共有する事が出来た上に、文化財としての価値も判断し易くなります。

 みなさんのお近くの寺院にもこの様な、まだ誰にも認識されていない、古い仏像がいらっしゃるかもしれません。日本全国でもまだまだ沢山いらっしゃるでしょう。修復が発見のきっかけになるかもしれません。


 
仏像の調査がきちんと行われていない地域も多い

 地方自治体の教育委員会に文化財保存課はあっても、おおかた考古学を専門にされた職員の方が多く、仏像彫刻史を学んだという職員の方には会ったことがありません。また、寺社の仏像の悉皆調査をきちんと行っている自治体は数える程です。圧倒的に未調査の地域が多いのです。調査は文化財保存の第一歩です。

 
仏像を守るのは修復者ではない

 仏像を守って来たのは、寺院の人であり、檀家の人であり、地域の人々です。また、これから守っていくのもこれらの人々です。修復者はこれらの手助けをするだけです。決して修復者が像を守っているというわけではありません。

 

仏像にとっての修復

 修復とは、像の生きて来た長い年月の中で、一つの事件でしかありません。それは、像にとって、重大事件ではあるけれども、過去にも未来にも像が生きている長い年月の中ではほんのひとコマ、一瞬の出来事でしかないのです。しかし、この重大事件でこれからの仏像の行く末が、良くも悪くも決まってしまう事もあります。

 従って、仏像の修復を依頼する時は慎重に業者を選び、修復方針をきちんと打ち合わせていく必要があります。


 
虫穴だらけの像でもあきらめないで  

たとえ、どんなに像が虫穴だらけでも、腐朽が激しくても、部材がばらばらになっていても、直す事が出来ます。あきらめないで修復家に相談をしてください。壊れた仏像をそのままにしておきますと、移動する度に磨耗し、部材が紛失していくことになります。早めの修復が肝要です。
 直し過ぎて別の像になってしまうという修理ではなく、像の面影はそのままに修復出来ます。
 これ以上像が損傷しないような処置を施し、虫穴を埋め、自立できるように台を作る事で、動かす度に像が減っていくのを防ぐことも大切です。 
 損傷仏の凄み、迫力を残した修復を心掛けます。

 

修復に関わりましょう

 修復は修復者だけで行っているのではありません。修復を依頼された方々も一緒に行っているのです。像内への納入品(修復銘札、経巻、写経など)を通じて像の修復に積極的に関わってください。

 修復の期間は像の内部まで観察する事が可能なので、像の隅々までを知るよいチャンスです。
 像内に書かれた墨書等の発見により、寺院の歴史をひも解くカギにもなります。


 

最後に

私は、仏像を直す事で像を次の世代に送りだす手助けがしたい。
   仏像を直すことでお寺を、地域を元気にしていきたい。
                         と考えています。

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