木造阿弥陀如来坐像    [市指定有形文化財]
16世紀か     
像高   47.2cm

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新潟県の寺院(曹洞宗) 
 
●修復前



●修復後
 


修復中(白いところはヒノキ材を彫出。黒いところは漆木屎。
御像の方はそんなに修復はしませんでした。

Y 形状
[本体]
螺髪切子型(後頭部を縦溝だけ刻み省略)肉髻。肉髻珠。白毫相、三道相をあらわす。耳朶環状。左手は、屈臂し、左ひざ上で、掌を上に向け第12指を捻じ、右手は屈臂し、右胸前にて掌を正面に第1・2指を捻じて、来迎印を結ぶ。衲衣を偏袒右肩にまとい、右肩に少し懸ける。衲衣を左胸前でたるませる。台座上に右足を上にして結跏趺坐する。

[台座]
蓮華座(蓮弁の両端を返す)。反花(蓮弁の両端を返す)。欄干。受座@。胴(梅、菊、牡丹の透かし彫り、柱)。受座A。雲座。框。

[光背]
舟形光背(二重円相。身光内に頭光を囲む。周縁部雲烟彫り。光脚)

Z 品質・構造
[本体]
木造寄木造り。(針葉樹材)。玉眼嵌入。内刳りあり。挿首。頭部は、耳前で前後に剥ぎ寄せ、内刳りを施し、玉眼を嵌入する。体幹部は背板を寄せ、内刳りを施す(平らなノミを使用)。左体側財を寄せ、左袖、左手先を寄せる。右肩、右肘、右前腕半ばで寄せる。右腰材を寄せる。両脚部を寄せる。肉髻珠、白毫、玉眼水晶製。

[台座]
木造(ヒノキ材)。膠下地漆塗り漆箔。

[光背] 
木造(ヒノキ材)。頭光内に銅製鏡を嵌める。膠下地漆塗り漆箔。身光内区に彩色。


[ 損傷状況・後補箇所
●損傷状況
 [本体]
  ・両耳朶、左手3,4指、右手2,3,4指、裳先の欠失。
  ・肉髻珠の亡失。
  ・右手肘を後世に再接合されている(木工ボンドか)。
  ・長年のホコリ、スス。
  ・表面漆塗膜の剥離、剥落。

[台座]
  ・長年のホコリ・ススによる汚れ。
  ・透かし彫りの梅の花の亡失。
  ・ネズミによる咬害部分がある。

[光背]
  ・長年のホコリ・ススによる汚れ。
  ・接着剤(膠)経年劣化による矧目の遊離。
 ・部材の亡失。

  ・頭光の鏡が曇っている。

●後補箇所
  頭部、両肩より先、両脚部。台座。光背。 

\ 所見
  ・鎌倉時代後期から南北朝時代の制作の御像として新潟市指定有形文化財に指定されている。
  ・頭部が少し古い後補で、両肩より先と右腰の三角材、両脚部が少し新しい
  ・後補。後補部材が多いが、これは、周囲のかたがたの信仰によって大事に守られてきた証と考える。
  ・台座、光背は江戸時代後期の後補であるが、非常に手間をかけた豪華なものを補われている。
  ・鏡背面に書かれた「藤原光永」銘の鏡は、東京国立博物館、練馬区の個人、古美術商など様々なところで残されている。

] 修復基本方針
  ・御像の歴史を尊重した文化財としての修復を行う。安易な塗り直し修理は行わなかった。

[本体] 
  ・部分解体にとどめた。
  ・後補部材はそのまま使用した。
  ・耳朶と指先を新補した(信仰対象としての必要最小限の新補)
  ・裳先は新補しなかった。(両脚部は後補部材で、後補部分の造形を強化してしまう為)
  ・表面の漆塗膜については、長年のホコリ、ススをクリーニングし、全体を剥落止めした後、色の調整をとる程度とした。

[台座]
  ・漆塗膜が切れている部分は、少なく、解体は行わずに内部から補強材で補強することとした。

[光背]
  ・部材が遊離しているので、全解体修復を行った。

[厨子]
  ・クリーニングのみを行った。

]T 修復工程
[本体]
 1.搬出
    薄葉紙、紙座布団などを使用して厳重に梱包して搬出した。 
 2.修復前写真撮影
    修復前の状態を写真に記録した。
 3.部分解体
    右肘、右手先、左手先を一旦解体した。
 4.クリーニング
    長年のホコリ、ススをクリーニングした。
 5.表面強化
    像表面を強化するために膠水溶液を塗布した。
 6.解体写真
    解体した状態を写真に記録した。
 7.樹脂構造強化
    矧目にアクリル樹脂を注入し、構造を強化した。
 8.新補
    両耳朶、左手3,4指、右手2,3,4指をヒノキ材にて新補した。
 9.肉髻珠新補
    肉髻珠を水晶にて新補した。
 10.組み立て
    麦漆、エポキシ樹脂系接着剤、ステンレス釘等を併用して組み立てを行った。
 11.補修
    欠失箇所、矧目に漆木屎(漆+小麦粉+木粉)を用いて補修を行った。
 12.補彩
    新補補修部分と、後補部材で色の調整をとるべき部分に周辺と違和感のないよう補彩を施した。
 13.修復完成写真
    修復後の状態を写真撮影し記録した。
 14.修復報告書作成
    写真を用いた修復報告書を作成した。
 15.搬入
    薄葉紙、紙座布団などを使用して厳重に梱包して搬送した。 
 16.安置
    修復工程のご説明後に像を安置した。
 17.修復銘札納入
    今回の修復の記録として、尊像名、修復年月日、ご住職様名、修復に関わった人の名、修復工房名などを桧板に墨書していただき、像内に納入した。(次回の修復時に子孫が目にする大事な記録となる。)

[台座](本体と同一工程は省略)  
1.樹脂注入
   内部より矧目に樹脂を注入し、構造を強化した。
2.補強材新補
   必要な部分に補強材をヒノキ材にて新補した。
3.剥落止め@
   膠下地に膠水溶液を吸わせ、強化した。
4.剥落止めA
   剥離している漆塗膜を膠水溶液と電気コテを使用して剥落止めした。
5.補修
   欠失箇所を漆木屎を用いて補修した。
6.新補
   欠失した梅の彫刻をヒノキ材を彫出して新補した。
7.下地
   漆塗膜の欠失箇所、補修新補箇所に下地を施した。
8.漆塗り
   下地を施した部分に塗り漆を塗った。
9.漆箔
   金箔を補うべき部分に金箔を貼った。
10.補彩
   補修部分に周囲と違和感のないよう色を置いた。

[光背](本体と重複部分は省略)
 1.解体
    部材を一旦解体した。
 2.矧目清掃
    矧目の接着剤を除去した。
 3.剥落止め@
     彩色部分と膠下地部分に膠水溶液を吸わせ、強化した。
 4.剥落止めA
     剥離している漆塗膜を膠水溶液と電気コテを使用して剥落止めした。
 5.解体写真
    解体した状態を写真に記録した。
 6.鏡磨き
    頭光の鏡を磨き、光沢を取り戻した。
  7.組み立て
     エポキシ樹脂系接着剤と錆びにくいステンレス釘を併用して組み立てた。
  8.新補  
     亡失した部材をヒノキ材を彫出して新補した。
  9.補修 
     矧目と小欠失箇所を漆木屎を使用して補修した。
  10.下地
     新補、補修箇所に下地を施した。
  11.漆塗り
     下地を施した部分に塗り漆を塗った。
  12.漆箔
     金箔補うべき部分に漆箔した。
  13.補彩
     周囲と違和感のないよう補彩を施した。

[厨子]
  1.クリーニング
     水拭きによって厨子をクリーニングした。

◆修復後記


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