木造聖徳太子立像   [福島県指定有形文化財]
鎌倉時代後期  像高   101.6cm
 

HOME修復例仏像の修復→木造聖徳太子立像

福島県の寺院(曹洞宗) 
   
●修復前後



●損傷状況

 

角髪の下に耳が。

 Y 形状
[本体]
髪を中央で分け、左右に角髪を結う。左手は屈臂し、腹前で五指を開き持物を執る(薄い板状のもの)。右手は屈臂し、腹前で五指を捻じ、持物を執る(丸い棒状のもの)。袍、左肩より袈裟を着け左胸で鐶に紐を通して結ぶ。袴を着ける。沓を履く。

[台座]
畳座。框座。

Z 構造・技法
[本体]
 木造寄木造り(カツラ材)。彫眼。漆地彩色。
 頭頂より首?まで一材で彫出し、襟の線で体躯に差し込む。頭頂より耳前を通る線で面部を矧ぐ(玉眼嵌入状の内刳り)。両側頭部に角髪を寄せる(角髪の下に耳の彫刻を施す)。体幹部は両足下まで一材で彫出し側面より内刳りを施す。両体側材はそれぞれ3材にて矧ぎ寄せる。左手先は差し込み矧ぎ。右手先は太?にて矧ぎ寄せる。両足先をそれぞれ矧ぐ。足?には(後補杉材か)別材を差し込む。表面漆下地彩色。

 [台座]
 木造(カツラ材)。天板2材と側面材4材矧ぎ寄せる。表面膠下地彩色。

[ 損傷状況・後補箇所
●損傷状況
[本体]
  ・東日本大震災の揺れで、顔面、首、左袖、右手先が脱落した。

  ・両体側材の矧目が緩んでいた。
  ・左袖先の部材が亡失していた。
  ・首後ろの襟が一部欠失していた。
  ・像全体に小欠失箇所があった。

[台座]
  ・矧目が遊離し、ビニル紐で固定されていた。

●後補箇所
[本体]
・首前部材。背面襟材。体側の中央材。両足?。 

[台座]
・台座側面材と天板の細材。表面彩色。

\ 所見
・鎌倉時代後期の制作と考える。角髪の下に耳の彫刻を施し、体幹部材を側面から内刳りを施すなど、独特の技法を用いている。在地の優れた仏師の作と推定される。
・台座の天板は裏面を手斧で仕上げられており、造像当初のものと推定される。後補細板にて一回り大きく改造されている。

] 修復工程
修復基本方針
・像の造像当初の彫刻形状、歴史を尊重した修復を行った。塗り直しなどの安易な修理方法はとらなかった。
・台座については、現状の部材を用いて修復を行った。
・持物については同様の作例は発見出来ず、持物の復元は行わない事とした。

[本体]
 1.搬出
    薄葉紙・紙座布団で損傷しないよう厳重に梱包した後、搬出を行った。
 2.修復前写真撮影
    修復前の記録として、全体と損傷箇所を写真におさめた。
 3.表面強化
    彫刻表面の強化の為に、膠水溶液を塗布した。
 4.解体
    部材を一旦解体した。(左体側は非常に強固に接合されており、解体を行わなかった)
 5.鉄釘除去
    鉄釘は、錆のイオンの影響で、周辺の木質を劣化させることから、これを全て除去した。
 6.釘穴補修
    釘穴を除去した部分は、ヒノキ材を挿入接着し、再度釘を打つ際に再利用した。
 7.矧目清掃
    矧目の膠などの接着剤を除去し、再接合に備えた。
 8.クリーニング
    彫刻表面の汚れを出来る限り除去した。
 9.解体写真撮影
    解体した状態を写真に記録した。   
 
10.組み立て
    麦漆、エポキシ系接着剤、ステンレスの釘などを併用して組み立てた。
 11.修復銘札納入
    今回の修復の記録として、像内に像名、修復年月日、ご住職様名、修復工房名などを記入した像修復銘札を胎内に納入した。
 12.矧目処理
    部材の継ぎ目を漆木屎で充填整形した。
 13.小欠失箇所補修
    小欠失箇所を漆木屎で補修した。
 14.新補
    大きな欠失箇所はヒノキ材にて新補した。(左袖、首後ろの襟など)
 15.下地
    新補、補修部分に錆漆を施した。
 16.色合わせ
    周囲と違和感のないよう、補修部分にのみ水干絵具で色を置いた。
 17.修復完成写真
    修復が完成した状態を写真に記録した。
 18.修復図面作成
    修復した部分が分かる修復図面を作成した。
 19.報告書作成
    写真を用いた報告書を作成した。
 20.搬入
    薄葉紙・紙座布団で損傷しないよう厳重に梱包した後、搬送し、搬入を行った。
 21.修復概要の説明
    御像を安置した後、修復概要のご説明を行った。

 [台座]
 1.解体写真
    解体した状態を写真に記録した。
 2.剥落止め
    表面彩色をこれ以上剥落させないよう、膠水溶液を塗布して、剥落止めを行った。
 3.組み立て
    麦漆、エポキシ系接着剤、ステンレス釘などを併用して組み立てた。
 4.矧目処理
    部材の矧目に漆木屎(漆+小麦粉+木粉)を充填整形して補修した。
 5.下地
    補修個所に膠下地を施した。
 6.框座新補
    框座を新補し、安定を良くした。
 7.框座松煙蒔き仕上げ
    新補した框表面を艶消し加工の松煙蒔き仕上げにした。
 8.補彩
    周囲と違和感のないよう、補修部分のみに漆錆下地と水干絵具を用いて補彩を施した。

 
   

◆修復後記


もどる
このサイトの御意見・御感想は、butuzou★syuuhuku.com
                       (★を@に変えて送信下さい)まで

HOME :http://syuuhuku.com